SPECIAL 2021.11.01

水族館がもっと楽しくなる!すみだ水族館の飼育スタッフに聞いた、いきものの生態と水温管理の話

Temperature zone for breeding jellyfish 7〜30℃

水族館に行くと、すいすいと泳ぐキレイな熱帯魚やふわふわと漂うクラゲ、愛嬌たっぷりのペンギンやオットセイなどがいて、時が経つのも忘れて水槽に見入ってしまう人も多いのではないでしょうか。そんな癒しスポットの水族館ですが、裏側では徹底した温度管理が行われているとか。今回は、来年でオープンから10周年を迎える「すみだ水族館」にお邪魔して、飼育スタッフの藤原智昭さんと百崎孝男さんに、いきものたちの生態と水温の関係や水槽の温度管理法など、水族館の温度にまつわる話を伺ってきました。

Writer:末光京子/Photographer:橋本千尋

今日お話を伺ったのは……

すみだ水族館 海獣担当 藤原智昭
いきものが好きで、高校卒業時に水族館で働くことを決意。学生時代にはさまざまな水族館での実習を経験。京都水族館で4年間魚類の飼育を担当した後、すみだ水族館で海獣担当になり現在5年目。また、小笠原村と連携したウミガメの保全活動のメインメンバーでもある。直近の夢はオットセイの「ブリーディングローン」による繁殖を成功させること。

すみだ水族館 飼育スタッフ 百崎孝男

すみだ水族館 魚類担当 百崎孝男
幼少期から昆虫が好きで、大学ではトンボについて研究。アルバイトで河川調査に携わるなかで、水生生物の魅力に気づく。いきものに携わる仕事がしたいと水族館に就職し、両性類、爬虫類、魚類などさまざまな生物の飼育を経験。現在、すみだ水族館で魚類チームのリーダーを務める。夢は日本固有魚であるユウゼンの繁殖。

7,000点のいきものを展示する、公園のように居心地のいい水族館

すみだ水族館は、どんな特徴のある水族館なんですか? 

藤原智昭(以下、藤原) 

従来の展示型水族館ではなく、当館は公園のような居心地のよい水族館を目指しています。イルカショーなどはありませんが、さまざまな角度からいきものを観察できるように水槽を工夫したり、いきものたちの個性を伝えることを大切にしているんです。いきものをゆったりと見てもらうため、水槽の前にソファや椅子を配置しているのも珍しいかもしれません。

どれくらいのいきものを、何人のスタッフで飼育されているんでしょうか。

百崎孝男(以下、百崎) 

当館には、全体で260種7,000点のいきものたちがいます。飼育スタッフは約30名いて、海獣チームと魚類チームの2チームに分かれて作業しています。

7,000点もいるんですね! お2人の主な仕事内容を教えていただけますか?

藤原:私は海獣チームなので、ペンギン・オットセイ・ウミガメの飼育を担当しています。

百崎:私は魚類チームでクラゲやチンアナゴ、金魚などを担当しています。掃除、調餌、給餌など、飼育スタッフの作業はとても広範囲です。

すみだ水族館 チンアナゴ
6Fのサンゴ礁エリアの水槽にいるチンアナゴ。どこか愛くるしい姿が人気だ

藤原:実はチーム内では、固定の担当動物は決めていません。というのも、一人の飼育スタッフが固定の動物だけになってしまうと、そのスタッフが休みの時にごはんを食べなくなってしまう可能性もあるんです。また、チームのみんなで全羽・全頭を見ることで、健康状態など少しの変化も見逃さないようにしています。なので、基本的にチーム内ではオールマイティーに対応していますね。

飼育スタッフさんは、どんな流れで1日の仕事をこなしているんでしょうか。

藤原:2人とも、だいたいこんな感じです。

〜海獣担当:藤原さんのある日の1日〜
08:00 出勤・担当の生きものに挨拶、掃除
09:00 調餌、掃除
10:00 飼育スタッフ全体朝礼
10:30 ペンギンの給餌、掃除
11:00 オットセイ・ウミガメの給餌、掃除
12:00 休憩
13:00 ペンギン給餌、掃除
14:00 ウミガメ給餌、掃除
15:00 オットセイ給餌、掃除
16:00 ペンギン給餌、掃除
17:00 オットセイ給餌、掃除
17:30 夕礼(早番と遅番で情報共有)
18:00 日誌記入・退勤

〜魚類担当:百崎さんのある日の1日〜
08:00 出勤・魚類チーム朝礼、 開館前の掃除(潜水掃除など)
10:00 飼育スタッフ全体朝礼、担当水槽に給餌
12:00 お昼休憩
13:00 シロワニに給餌
13:30 バッグヤードのいきものの掃除
14:30 潜水清掃
16:00 日誌記入
16:40 夕礼(早番と遅番で情報共有)
17:00 退勤

ほとんど1時間ごとに給餌や掃除をしているんですね。水槽の潜水清掃まで! 体力が必要なお仕事なんですね。

オットセイやペンギンの水温管理は繁殖活動にも影響

ここからは、飼育されているいきものについて詳しく伺います。今、オットセイの検温を見学していますが、オットセイの平熱はどのくらいなんですか?

藤原:個体差はありますが、だいたい36〜37℃くらいです。人間と同じような感じですね。体毛があって脇の下では体温が測れないので、お尻の穴から温度計を15〜20cmくらい入れて直腸温度を測っています。

すみだ水族館のオットセイ 検温
飼育スタッフの顔を見つめながら、大人しく検温を受けるオットセイ。時々、ごほうびの魚をもらっていた

検温は毎日するんでしょうか。

藤原:はい。毎日検温して、個体ごとの体温の傾向を把握しています。健康な時の値を毎日記録することで、体温に変化があった時にすぐ気がつけるようにしているんです。

そうなんですね。プールの水温は一年を通して同じ温度なんですか?

藤原:当館で飼育しているミナミアメリカオットセイとマゼランペンギンは同じ南アメリカに生息するいきものなので、両方のプールは繋がっていて同じ水温になっています。夏は水温を上げて、冬は下げるようにしていますね。

夏と冬では水温が違うんですね。

藤原:生息地域では、年間で10℃くらい水温の差があるんです。現地の水温をここで同じように再現しようとすると、冬の水温が低くなり、人がプールに潜って掃除をする場合にかなり冷たく感じてしまいます。なので当館では、夏は約29℃、冬は20℃に設定して、年間で約10℃の差が出るように調整しているんです。

すみだ水族館のペンギンプール
5Fにあるペンギンのプール。水槽の前にはイスが並んでいるエリアがあり、1日中ペンギンを眺めていられる

オットセイとペンギンにとって、夏と冬で水温を変えることは大切なことなんでしょうか?

藤原:オットセイもペンギンも、一年の中で繁殖期や羽と体毛が生え変わる時期があって、そういう体のリズムを正常に整えるには、水温や照明で夏や冬の季節の移り変わりを知らせてあげる必要があるんです。

実は、当館のオープン当初はペンギンやオットセイたちがまだ南アメリカからきたばかりだったこともあって、羽や毛が生え変わる時期が個体によってバラバラでした。日本の季節に合うように試行錯誤して、水温や照明に夏と冬で変化をつけたら、ちゃんと体のリズムが正常なサイクルになりました。

水温を切り替える時期は決まっているんですか?

藤原:はい。8月は29℃まで上げていて、9月は25℃まで下げ、10月には22℃まで下げる予定です。12月、1月が一番低くて20℃くらいですね。

思ったより、急激に水温を変えるんですね。

藤原:オットセイやペンギンは毛や羽で体が覆われているので、急激に水温を変えても体温を維持できるんです。もう今の時期から水温を下げて冬モードにしていき、うまく繁殖期に入れるようにしています。

すみだ水族館のペンギンたち

繁殖期はいつ頃なんですか?

藤原:ペンギンは3〜5月、オットセイは4〜6月です。だいたい春先から夏前くらいが繁殖期になります。ペンギンたちは、これから12〜1月にかけて恋のシーズンに入っていって、3〜5月に卵が生まれる、という流れです。

へぇ〜、ペンギンは繁殖の前に恋のシーズンがあるんですね。

藤原:そうなんです。ちゃんと体のリズムが整えば、恋のモードになって、ペアがいない子たちは相手を探します。すでにペアになっている子たちは、さらに絆を深めて繁殖活動に入っていきますよ。ペンギン同士の関係はけっこう複雑でおもしろいので、良ければ相関図を見てみてください。

ただ、羽や体毛が生え変わる時期がずれ込んだ場合は、繁殖期も本来の時期から外れてしまう可能性があります。

すみだ水族館の飼育スタッフ

時期がずれると、繁殖がうまくいかないんでしょうか。

藤原:そういう場合もあります。ペンギンたちは当館の中でペアを組んでいますが、当館のオットセイは全頭メスなので、「ブリーディングローン」と言って、繁殖活動のために他の動物園や水族館に数ヶ月間、お見合いに行ったりしています。そのためには、他の園や館の子たちとタイミングが合っていないとうまく繁殖できないことになります。

なるほど。やはり、水温管理が大事になってくるんですね。お話、ありがとうございました。

7〜30℃まで、7つの温度帯でクラゲを飼育

すみだ水族館のアクアベースにあるラボ

続いて、5Fの「アクアベース」の中にある「ラボ」に来ました。百崎さん、こちらでは何を行なっているんですか?

百崎:当館では、飼育する約14種700匹のクラゲをすべて卵から育てています。その繁殖や飼育作業のすべてを行っている場所が、こちらの「ラボ」です。魚だったら水槽の中に岩や水草など隠れ場所が必要なんですが、クラゲは水槽内に特に何も必要ないし、角のない丸い水槽を使うことが多いので、どこか研究室っぽく見えますよね。

角がない水槽を使うのはなぜでしょうか。

百崎:クラゲは自分ではほとんど泳げなくて、基本的に漂っているだけのいきものです。水槽に入れるだけだと下に沈んでいってしまうので、人工的に水流を作ってあげないといけません。ただ、水槽に角があるとぶつかって傷ついてしまうので、丸い水槽を使うことが多いんです。

すみだ水族館のミズクラゲの水槽
0〜7日目までの成長段階のミズクラゲが入った丸い水槽。遠くからだと肉眼ではほとんど見えない小ささだ

へ〜、それは知りませんでした。クラゲを育てるというのは、具体的にはどんな作業なのですか?

百崎:クラゲは、まず「プラヌラ」や「ポリプ」と言われる成長段階を経て、「エフィラ」という小さな赤ちゃんとなり、そこから成体へと成長していきます。プラヌラやポリプは性別のない無性生殖世代で、エフィラからがオスとメスがある有性生殖世代となります。

無性生殖世代のポリプは分裂してクローンをどんどん作っていくんですが、このラボではポリプを管理して、温度変化を与えることでクローンを増やし、ポリプからエフィラへ育てているんです。

無性生殖は毎日行っています。植物を挿し木して増やすのが無性生殖で、受粉して種ができるのが有性生殖と例えると、わかりやすいでしょうか。

クラゲの成長サイクル
クラゲの成長サイクルの図

クラゲには、独特な成長サイクルがあるんですね。温度変化を与えているとのことですが、水温はどのように管理されていますか。

百崎:7〜30℃まで、7つの温度帯を使い分けて飼育しています。クラゲの種類によって温度は異なるんですが、どの種類も2つの温度を行き来して調整することが多いですね。例えばミズクラゲでは、水温23℃でポリプを管理します。それを7℃まで下げるとポリプがストロビラになり、そこからクラゲの赤ちゃんのエフィラが分離して出てくるんです。クラゲの種類によって、冷やすのか温めるのかは変わってきます。

水温を下げるとエフィラが出てくるのはなぜでしょうか?

百崎:何かしらの刺激がないとエフィラは出てこなくて、クラゲの種類によって、その刺激が水温や酸素濃度、塩分濃度だったりするんです。いろいろな方法を試した結果、ミズクラゲの場合は水温を下げると出てくることがわかっています。

すみだ水族館のメタフィラ
花のような、ヒトデのような形で漂うメタフィラ(エフィラの次の成長段階)の群れ

なんだか、聞いているだけで飼育の大変さが想像できます……。エフィラが出てきたら、そのままの温度で育てるんですか?

百崎:水温は常温の23℃くらいに上げます。低いままでも大丈夫なんですが、7℃をキープするのは大変なので。7℃だと水槽が結露して、お客様から見えないという問題があり、少し早めに育ってほしいというのもあるので、23℃で育てています。

エフィラが出てきたら、どのくらいの期間で成体になるんでしょうか。

百崎:ミズクラゲで約3ヶ月です。長生きして欲しいので、今度は水温を下げて18〜20℃で飼育しています。常温のままだと、早く大きくなって子どもを出して、体力が尽きてしまうんです。ミズクラゲの寿命はだいたい1年くらいですね。

すみだ水族館のビッグシャーレ
アクアベースのラボで育ったクラゲたちは、成長したら館内のビッグシャーレで飼育される

水槽の水温は3つの方法で管理

すみだ水族館全体での水槽の温度管理についても聞かせてください。水温管理は、具体的にはどのように行なっているんですか?

百崎:水槽を冷やす方法としては、直接冷やす、ウォーターバスで冷やす、熱交換器で冷やす、という3つの方法があります。直接冷やす方法では、「インキュベーター」という水温を一定に保つ機械や水槽用のクーラー、ヒーターを使ったり、エアコンを使って室温を変えることで水槽の温度も調節したりしています。

ウォーターバスで冷やすというのは、クラゲのラボでも使っているのですが、水槽自体が小さくて個別に冷やせない場合や、いくつかの水槽をまとめて同じ温度に冷やす場合などに使う方法です。水槽をさらに大きな水槽に入れて、その大きな水槽の温度を調節することで、中の水槽の温度を管理しています。

最後に熱交換器で冷やす方法ですが、当館だと大元に1台の冷却機があって、水を約10℃に冷やしていまして。その水が「小笠原大水槽」やペンギンのプールなど、各水槽に送られているんです。でも、冷たい温度のまま水槽に送っているのではなくて、大水槽は21℃、珊瑚の水槽はもう少し高めの26℃など、各水槽に合った温度にする必要があるので、大元の冷却機と各水槽の間に熱交換器をかませることで温度を調節しています。

すみだ水族館の飼育スタッフ

そんなにいろいろな方法があるんですね。水槽の温度管理で難しいのは、どういったところでしょうか?

百崎:基本的に温度管理自体は機械で行なっているので、そんなにシビアではないんですが、春と秋が冷温と加温に切り替える時期で、そのタイミングには気を使います。例えば、大水槽の温度の切り替えにはバルブを大人数で操作しないといけなくて、さっとは変えられないんです。だいたい外の最高気温が20℃を下回ってくると、大水槽の温度にも関わってくるんですが、例年12月ごろは気温の上下があり、週間天気予報を見ながらかなり気を揉みます。

日本が誇る世界自然遺産、小笠原の海の魅力を感じてほしい

今日はお2人から話を聞いて、水族館はいきものの生態に合わせた水温管理が重要だとわかりました。最後に「すみだ水族館に来たらぜひ見てほしい!」といういきものをそれぞれ教えてください。

百崎:今、ユウゼンというチョウチョウウオの仲間を繁殖させようと頑張っているのですが、3年かかってもうまくいかずに足踏み中で。日本の固有種で、着物の友禅染から名前がついた、黒くて渋い日本風の魚なんです。陸上のいきものと違い海はつながっているので、日本にしかいない魚ってすごく少なくて。ユウゼンを常時展示している水族館は、当館を含めて全国で3館ほどしかないので、ぜひ見ていただきたいですね。

すみだ水族館のユウゼン
チョウチョウウオの仲間のユウゼン。6F奥のサンゴ礁エリアの水槽で見られる

藤原:私は、「小笠原大水槽」にいるサメのシロワニがオススメです。他の水族館にもシロワニはいるんですが、日本の小笠原生まれの個体を飼育しているのは当館だけなので。

百崎:当館の大水槽は、小笠原の海を表現しているんです。実は、日本には世界自然遺産は5つしかないのですが、その1つが小笠原諸島。世界自然遺産が東京にあることをみなさんあまりご存じないので、東京の水族館である私たちがその魅力を伝えたいという思いから、小笠原のいきものの展示には力を入れています。

藤原:他に、ウミガメの展示も小笠原と協力して行なっている保全活動の一環でして。小笠原は日本で有数のウミガメの産卵地なんですが、生まれてから1年以内は外敵に襲われやすくて生存率が低いんです。そのため、毎年生まれた赤ちゃんを当館で預り、1年間で25cmくらいまで大きくして海に還す活動をしています。

百崎:また小笠原大水槽では、小笠原特有の深く澄んだ海の色「ボニンブルー」を表現しています。すみだ水族館で小笠原の海の魅力も感じていただけたら、すごく嬉しいですね。

すみだ水族館のシロワニ
藤原さんオススメのサメのシロワニ。5Fと6Fにまたいで設置されている小笠原大水槽で見られる

まとめ

取材の中で印象的だったのが、すみだ水族館のスタッフのみなさんが、飼育するいきもののことを「うちの子」や「この子」と表現することでした。そこには、我が子を愛おしむような愛情が感じられました。

また、飼育スタッフのみなさんは水質を維持するために、小さなことにも気を配っていることを知りました。水はその質や温度によっていきものに大きな影響を与えることから、藤原さんから「水も1つのいきもののように飼育していると考えています」と聞き、目からウロコでした。

すみだ水族館では、現在「スリーペンギンディスタンス」を実施中。約2m、ペンギン3羽分のソーシャルディスタンスがとれるフロアマットを置くなど、三密対策をしています。随時イベントも開催されるので、1人でゆっくり楽しむのもよし、大切な人と行くのもよし。ぜひすみだ水族館を訪れてみはいかがでしょうか。

INFORMATION

すみだ水族館

〒131-0045 東京都墨田区押上1丁目1-2 東京スカイツリータウン・ソラマチ5-6F
公式HP:https://www.sumida-aquarium.com/index.html

PRODUCED by

マガジンど 編集部

あらゆるものの温度について探究していく編集部。温度に対する熱意とともに、あったかいものからつめた〜いものまで、さまざまなものの温度に関する情報を皆さんへお届けします。

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