FOOD 2022.04.02

Mr. CHEESECAKEのシェフに聞いた、温度変化を楽しめるチーズケーキの秘密

Temperature when baking cake 100℃

おうち時間を楽しむためにお取り寄せした美味しいスイーツを味わう瞬間は、まさに至福の時ですよね。最近では、お取り寄せできるスイーツの種類が増え、そのクオリティもどんどん上がっています。盛り上がりを見せるお取り寄せスイーツの中でも、特にファンが多いのが「Mr. CHEESECAKE」のチーズケーキ。週2日公式サイトで販売しており、なめらかな口どけや季節の限定フレーバーが楽しめるのが人気の秘密です。今回は「Mr. CHEESECAKE」の生みの親である田村浩二さんに、「温度変化を楽しめるチーズケーキ」の秘密を伺いました。

Writer:末光京子/Photographer:橋本千尋

今日お話を伺ったのは……

Mr. CHEESECAKE 代表取締役/シェフ 田村浩二

Mr. CHEESECAKE 代表取締役/シェフ 田村浩二
日本やフランスのレストランで修業を重ね、2017年に世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに31歳で就任。World’s 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴ・エ・ミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。 現在はMr. CHEESECAKEの他、複数の事業を手掛ける事業家として活動。

原点は、子どもの頃に食べた母の手作りのチーズケーキと幸せな記憶

Mr. CHEESECAKEのケーキ

「Mr. CHEESECAKE」さんでは、商品をチーズケーキに絞って展開されていますよね。それはなぜでしょうか?

田村浩二(以下、田村)

子どもの頃から、僕の誕生日に母がチーズケーキを手作りしてくれていた、ということが一番大きな理由かもしれません。

母はすごく凝り性で、日頃からおやつにプリンを焼いたりドーナツを揚げたりしてくれていたんですよ。なので、自分の中で幸せな記憶とスイーツが直結していて。それに、みんなで集まってお祝いをする時にスイーツを食べて過ごした記憶が残っていて、それが心地良かったのかなと思います。

素敵な思い出が原点にあるんですね。レストランシェフとして活躍されていた田村さんが、スイーツ作りに注力されるようになったのにはどういった経緯があったのでしょうか。

田村:調理師専門学校に在籍していた時に、お菓子の世界に入るのか、フランス料理の世界に入るのかですごく悩んだ時期があったんです。でも、フランス料理はコースなのでデザートもあるし、フランス料理を選べばいずれフランスに行くことになるだろうから、現地でパンやお菓子作りも勉強できるなと思って。

なので、レストランシェフとして働きながら、独学でお菓子作りも勉強していたんです。その中で、フランス料理はお客様にとって敷居が高いイメージがあるけれど、デザートやスイーツだけなら手に取りやすいし、分かりやすく人をハッピーにできるな、と思うようになりました。

それに、シェフとして賞をいただいた時に立ち止まって考えたんです。レストランはその場で最高の料理を仕上げて提供するスタイルなので、どうしても多くの人には届けられない。誰が食べても美味しいと思うシンプルなスイーツを、より多くの人に届けるにはどうしたら良いか、と。その時に思い浮かんだのが、子どもの頃から食べていたチーズケーキでした。

Mr. CHEESECAKE 代表取締役/シェフ 田村浩二

なめらかで美味しいチーズケーキの秘訣は「乳化」と徹底した「温度管理」

子どもの頃の思い出と、シェフとしての経験が結びついたんですね。そこから、冷凍したケーキをオンラインのみで販売する形になったのは、なぜですか?

田村:オンライン販売にしたのは、より多くの人に気軽に食べてもらいたい、という思いがあったからです。冷凍にしたのは、レストランのデザートのようななめらかさを極限まで表現したかったから。なめらかで柔らかいケーキをオンラインで販売するとなると、冷凍しか選択肢がなかったんですよ。そういうところから、だんだんと今のスタイルに決まっていきました。

その場で提供できる実店舗と違って、チーズケーキを冷凍して美味しさをそのまま届けるのは難しいことですよね?

田村:そうですね。なので、冷凍から解凍しても美味しさが損なわれない配合を意識して作りました。フランス料理では「乳化」が大事だと言われていて。乳化とは、簡単にいうと、ふだんは混ざり合わない水と油を均一に繋いでなめらかな状態にすることを言います。

チーズケーキにはクリームチーズや生クリーム、ヨーグルトなどを入れるんですが、乳製品の油脂分と水分などが合わさっても分離しないようにしっかりと乳化させることで、解凍しても味が落ちないようにしているんです。

Mr. CHEESECAKEのケーキの材料
チーズケーキには、他にバニラ、レモン、トンカ豆なども使われている

フレンチのシェフとしての経験があったからこそ実現したチーズケーキなんですね。他にケーキをつくるうえでのポイントはありますか?

田村:焼き方にもポイントがあって、ケーキの型を置く鉄板にお湯を入れて焼く「湯煎焼き」をすることで、ゆっくりと生地に火を入れています。そうすると、お湯に浸かっている部分の生地は100℃を超えないので、生地が沸騰しないんです。

もし180℃で焼くと、生地が沸騰してせっかく乳化させた材料が分離してしまいます。100℃を超えないように焼けば、乳化させた材料が安定するので冷やしても細胞が壊れず、解凍した時もいい状態を保てるんです。

それは知りませんでした。温度にこだわっていらっしゃるんですね。

田村:はい。他にも、クリームチーズを混ぜ始めた時の温度、そこに生クリームを加えた時の温度、サワークリームの生地を作った時の温度、全部を混ぜ終わった後の温度……と、毎日各工程で測っています。

そこまでやっても、毎日同じ状態にはなかなかならなくて。夏と冬では牛の餌が違うので、クリームチーズや生クリームの乳脂肪の感じが違ったりするんです。僕たちがどんなに温度を測ってそろえたとしても、まったく同じケーキにはならない。そこが面白いところでもありますね。

確かに、材料を生み出している生き物が違うと、同じにはならないですよね……。考えてもみませんでした。それに、そんなに細かく温度を測っているなんて、すごいです……。

田村:チーズケーキは誰にでも作れて、どこにでもあるお菓子です。それを「Mr. CHEESECAKE」というブランドとしてどこよりも美味しく作って提供するためには、本当に細かい部分にこだわっていく必要があるんです。食べた時にお客様が感動する体験を安定して生み出すために、そこは大切にしています。

温度によって味わいが変わるチーズケーキの楽しみ方とアレンジ方法

Mr. CHEESECAKEのケーキ

「Mr. CHEESECAKE」さんでは、冷凍・半解凍・全解凍という3つの味わい方を提案されていますよね。冷凍で届けることが決まってから、そういったコンセプトを作ったんですか?

田村:よくそう聞かれるんですけど、コンセプトを作ったというより、副産物として生まれたものなんです。料理人ってすごくせっかちで、冷凍のケーキがちゃんと溶けるまで待てないんですよ(笑)。焼いて冷凍したら型から抜いてキッチンに置いておくんですけど、解凍するまで待てないから凍ってる状態のケーキをスプーンでカツカツしながら試食するんです。少し経ってから食べると、まわりはちょっと溶けてるけど、中心は凍っててその食感のコントラストがいい。

そこからさらに放置すると、温度が上がってケーキが溶けていたんですよね。これもすごくなめらかでいいと思いましたし、温度と時間で明確に食感と味が変わっていくことに気がつきました。冷凍でお届けするケーキだからこそ、解凍具合で楽しみ方が広がるなと思ったんです。

冷たいと甘みを感じにくいので、酸味が好きな人は冷凍や半解凍で食べてもらえばいいし、酸味が苦手な人は完全に解凍してから食べてもらえばいい。それに作り手からすると、ケーキをじっくり味わってほしいという思いがあります。冷凍から全解凍まで、それぞれの状態で時間をかけて楽しんでもらえたら嬉しいですね。

チーズケーキのアレンジ方法もいろいろ提案されていますよね。田村さんが一番好きな食べ方を教えてください。

田村:僕が働いていた南フランスは、オリーブオイルや柑橘、ハーブがすごく有名な地域なんです。よくそうした食材を使っていたからか、ケーキにオリーブオイルをかけてレモンの皮を削って食べるのが好きです。ちょっとだけ塩を散らしてもいいですね。

他にも、冷凍のままのケーキを一口大にカットしてピックに刺して、溶かしたホワイトチョコレートに潜らせるのもオススメです。そうすると、ケーキがチョコでコーティングされて、すごく美味しいんですよ。

オリーブオイルとレモンでのアレンジ方法はこちら

聞いているだけで美味しそうです……。チーズケーキに合うオススメの飲み物はありますか? 

田村:個人的には、フレッシュハーブティーがすごく好きなんです。ミントとレモングラスの新鮮な葉にお湯を注ぐだけで、フレッシュだからこその香りのたち方や味わいの複雑さを味わえます。透明のポットにいろいろなハーブが入っている様子も美しいですよ。

味覚をアップデートして新しいフレーバーを発案

「Mr. CHEESECAKE」さんでは、約2〜3ヶ月に一度、季節ごとに限定フレーバーを販売されていますよね。新しいフレーバーのアイデアは、どうやって生み出しているのでしょうか?

田村:レストランで作っていたようなデザートを、チーズケーキという形でどうやったら表現できるかな、というところから発想することが多いですね。あと、僕は香りをすごく大事にしていて。今まで僕が美味しいと思った食材の組み合わせって、香りの相性が良いものが多いんです。

なので今は香りの相性がいい食材を考えて、そこから新しい味を導き出すこともあります。自分が体験した美味しい記憶から味を作り出すこともあれば、自分が学んだ知識から味を導き出していったりと、いろいろなパターンがありますね。

Mr. CHEESECAKE 代表取締役/シェフ 田村浩二

「新しいフレーバーの試作は、3回くらいしかしない」と何かで拝見しました。

田村:最近は試作が増えてきました(笑)。でも、基本的にはそんなにしないですね。試作をする前に、頭の中でかなりイメージを練るので。自分の中でイメージが完成している味だと、本当に3回の試作で95%までは完成します。

それで4回目以降は、あえて自分がふだんやらないような方法に挑戦するんですよ。わざと自分の思考から外れた組み合わせや配合を試すと、10回に1回くらいはめちゃくちゃいい味になるんです。結局、3回目の味が良かったということも多いんですけど(笑)。自分の好みの中だけで味を作っていると枠に収まってしまうので、あえて僕の嗜好とは違う味を作る機会を用意して、自分の味覚の幅をアップデートしていく努力をしています。

そういったチャレンジをして成功したフレーバーには、例えばどんなものがありますか?

田村:1つくらいしかないですね(笑)。「Mr. CHEESECAKE hirami lemon」というシークワーサーを使ったフレーバーで、かなり難航したんですが、ペパーミントや山椒などちょっと強い風味の食材を加えてみたら、すごくバランスの良いケーキが出来ました。

2020年7月に限定発売した、「Mr. CHEESECAKE hirami lemon」

ブランド4周年の春限定フレーバーはこだわりの熟成紅茶とベルガモットを使用

春限定フレーバーの「Mr. CHEESECAKE milk tea bergamot」

3月末からは、新しい限定フレーバーを発売するそうですね。

田村:そうなんです。ブランド誕生から4周年を迎える今年の春は、「Mr. CHEESECAKE milk tea bergamot」というフレーバーを発売します。3〜5年熟成させた重厚な味わいの紅茶をメインに、一からブレンドしてもらった茶葉を使っています。

ただ、その茶葉だけで作ると、「紅茶感」が出ないんですよ。一般的な紅茶のお菓子に使われるアールグレイはベルガモットという柑橘の精油で香りをつけているので、一般的にはその香りがイコール紅茶だと思われています。今回使用した上質な茶葉は香料を加えていないので、紅茶だと認識されにくいんです。

だから、あえてちょっと荒々しくてガツンとくる香りの茶葉を使い、生クリームに移す形で香りだけ抽出しました。そうすると、紅茶らしい香りだけを上手く加えられるんです。そこに、高知県で作っているベルガモットのピールをアクセントで使いました。

またすごいこだわりですね。お話を聞いているだけで、もう美味しそうです……。

「Mr. CHEESECAKE milk tea bergamot」の材料

チーズケーキでなくてもいい。食を通して豊かな時間を届けたい

ホームページを拝見すると、チーズケーキのレシピを公開したりアレンジ方法を紹介したりされていますよね。お客さんをもてなそうという気持ちが伝わってきました。

田村:ありがとうございます。僕はシェフなので、美味しいスイーツを作るのが仕事です。でも、ただ作るだけでなく自分が作ったものが、食べる人にとってどんな存在になるのかがすごく大事で。

食べた人の心が動いて、ほんの少しでも人生が変わるようなことが起きたら素晴らしいなと思っているんです。それは自分が作ったものではなくてもよくて、レシピを見てケーキを作りながら、幸せな時間を過ごしてもらう形でもいい。食を通して豊かな時間を過ごしてほしいという思いを、いろいろな手段で提供できないか、いつも考えています。

素敵なお考えと取り組みですね。最後に、ブランドや田村さんご自身の今後の目標を教えてください。

田村:もともと僕は「Mr. CHEESECAKE」のブランドをグローバルに伝えていきたいという思いがあるので、世界に向けて頑張って広めていきたいと思っています。

それから、自分のスキルを活用して「Mr. CHEESECAKE」以外でも新しい美味しさを提案して、食を通してより豊かな時間を提供できる取り組みをしていきたいです。

Mr. CHEESECAKE 代表取締役/シェフ 田村浩二

まとめ

今回お話を伺って、「チーズケーキそのものというより、食を通して豊かな時間を届けたい」という田村シェフの言葉にハッとしました。私たちは日々の忙しさにかまけて、ついつい日々の食を疎かにしがちです。

でもそれは、頑張った自分や大切な人と過ごす時間を疎かにしているのと同じなのかもしれません。たまには自分へのご褒美に美味しい食べ物を1人でじっくり味わったり、身近な人と食を通してゆっくり過ごしてみてはいかがでしょうか。

INFORMATION

Mr. CHEESECAKE

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マガジンど 編集部

あらゆるものの温度について探究していく編集部。温度に対する熱意とともに、あったかいものからつめた〜いものまで、さまざまなものの温度に関する情報を皆さんへお届けします。

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