FOOD 2022.08.16

誰でも美味しくヘルシーに調理できる「神なる温度=63℃」とは?低温調理器・BONIQで魅力を実演

God temperature of low-temperature cooking 63℃

皆さんは「低温調理」という言葉をご存知ですか? 最近、チラホラと耳にするようになった「低温調理」ですが、実はプロの料理人も活用しているスゴイ調理法らしいんです。料理が苦手な人でも簡単にプロ級の味を出せて、その上、とってもヘルシーに仕上がるというのですから、これは気になりますよね。そこで、総販売台数15万台(2022年6月現在)という人気低温調理器「BONIQ(ボニーク)」を開発・販売している株式会社葉山社中の代表取締役・羽田和広さんにインタビュー。自ら調理していただいたお料理(全9品!)をいただきながら、その魅力とともに「神なる温度=63℃」の活用法を教えてもらいました。

Writer:末光京子/Photographer:橋本千尋

今日お話を伺ったのは……

株式会社葉山社中 代表取締役 羽田和広
1979年、東京都生まれ。株式会社葉山社中 代表取締役。海外留学を経て国内メーカーに就職、独立後はWeb広告のマーケティングに携わる。自分が本当によいと自信が持てるものを手がけたいという思いから商材を探す中で、低温調理という調理法と出会う。2017年、自ら企画・開発を手がけた低温調理器「BONIQ」を販売スタート。現在はBONIQを使ってアスリートを食の面からサポートする活動や、低温調理のレシピコンテストを開催するなど次世代の料理人の支援も行う。

料理をしない人でもプロ級の味に!誰でも美味しくできる「低温調理」の魅力とは

「低温調理」とは、どんな調理法なのでしょうか。

羽田和広(以下、羽田) 

従来のフライパンやお鍋を使った加熱方法は、火を使うので食材が100℃以上になります。それを「高温調理」とした場合に、対して「低温調理」というのは水を使って100℃以下で食材を加熱する調理法です。食材を入れる水の温度をコントロールすることで、食材に間接的に熱を入れるんです。水は100℃以上にならないので、従来の「高温調理」に対して「低温調理」と言われています。

例えば、100℃のサウナに入っても人間は死なないですけど、100℃のお湯は火傷しちゃうじゃないですか。それは気体と液体で熱伝導率が違うから。熱伝導率が高い液体を通すことによって、食材を加熱する精度が格段によくなる。食材は温度が1℃変わるだけで状態がどんどん変わっていくので、厳密に温度管理をしながら食材に熱を入れられるっていうのが「低温調理」のすごさですね。

具体的にはどのように調理するんですか?

羽田:BONIQなどの低温調理器で水の温度を管理しながら、下処理をした食材と調味料を耐熱ビニール袋に入れて、その水の中に一定時間入れます。だからゆっくり、繊細に食材を加熱することができるんです。

まだあまり一般的ではない調理法だと思うのですが、羽田さんが低温調理に着目されたきっかけはなんだったんですか?

羽田:低温調理自体は40年ほど前にフランスで生まれた技術なんですが、僕は2016年にドイツの展示会で低温調理器と出会ったんです。「これはすごい!」と思って。

自分は料理をあまりしないんですけど、そんな僕がやってもすごく美味しく料理ができるわけですよ。下手なレストランより美味しいって思うくらい(笑)。使った時の効果がめちゃくちゃ明確にわかるし、誰がやっても失敗しない。それは科学的なバックボーンがあるからなんですが、とても画期的だと思いました。

低温調理にはどんなメリットがあるのでしょうか。

羽田:一つは正確性。加熱だけに関して言えば、人間が行うよりも高精度で熱を入れられます。タンパク質が変化する60℃で加熱したいって思ったとき、ガスだと上手に火を入れても正確に60℃をキープするのは難しい。だけど、低温調理なら専用の調理器具があれば、誰がやっても正確にできるんです。

BONIQなら温度設定や調理時間の管理は、液晶パネルのボタンで簡単に調理設定が可能

もう一つは安全性。低温調理であれば、食材を加熱する時間を延ばすことによって明確に殺菌できますが、ガス調理だと、食材の外側を見て火が入っているかどうかを判断するじゃないですか。実は科学的には危険なことなんですよ。

低温調理なら誰がやっても正確性・安全性を担保できるし、なおかつ、同じ温度帯であれば、複数のメニューを同時に作れることもメリットです。一度加熱してストックしておけば、次は短い時間再加熱すればいいので、調理の効率性が格段に変わってくるんです。

栄養面でも、低温度帯での加熱なので栄養素を壊しにくいというメリットもあります。

※BONIQ公式サイトにも低温調理のメリットが掲載されている

BONIQで低温調理した「しっとりローストポーク」。レシピはこちら

では逆に、低温調理のデメリットもあるんでしょうか。

羽田:一番は調理時間が長いことですね。低温でじっくり加熱するので、完成するまでどうしても時間がかかる。今すぐ食べたい時に、2時間かかるって言われたら待てないですよね。

とはいえ、下準備で作業する時間は数分で、あとは待つだけ。なので、炊飯器でお米を炊く感覚で使っていただければ大きなデメリットにはならないと思います。

あとは、焦げ目をつけるのは無理なので、低温調理をした後に補ってあげることが必要です。でも、食材の内部の温度と外側の温度を明確にわけて考えることができるから、素人にはむしろわかりやすくて、焦がして失敗するというリスクがなくなります。

高温調理だと、食材の外側の温度と内部の温度を同時に管理しないといけないわけで、プロの料理人ならそれも可能なんでしょうけど、一般の人だと肉の表面を焦がしたり、火を通しすぎて身がパサパサになっちゃったりするんですよね。

低温調理初心者にとっては、温度管理の難しさもあるのかなと思うのですがいかがでしょうか。

羽田:低温調理は科学的なロジックがあるものなので、きちんとルールを理解した上で専用の調理器具を使えば、すごく手軽にできるんです。実はよく言われる「肉を休ませる」とか「予熱で火を通す」という手法は科学的に安全という根拠のない調理法なんです。

私たちは、そういう科学的な根拠に関する情報をきちんとお伝えしていくことも大切だと思っていて、三重大学と共同で研究も行なっています。例えば、お肉はどうやって加熱したら内部の温度はどんな風に上昇し、菌はどの温度で死ぬのかっていう実験をし、自社でしっかりと検証もすることが大事だと思っているんです。

牛肉が「加熱温度」によって状態が変化する様子。50℃辺りから変化を起こし、70℃を超えると固く縮んでしまい、ほとんどの肉汁を失ってしまう(BONIQ公式サイトより)

BONIQのユーザーはどんな方が多いのでしょうか。

羽田:BONIQを売り出した2017年あたりって“肉ブーム”だったんです。だから最初は、肉料理が美味しくできますよっていう訴求の仕方で、テレビや雑誌で取り上げていただきました。でも、メディアに出なくなったら全然売れなくなっちゃったんですよ。

これはまずいなと思っていたとき、メッセージをいただいていたお客さま達の情報を見てハッとしました。わざわざメッセージを送ってくれるくらい、BONIQに感謝してくれていたのは、フィットネスや健康に興味がある方々だったんです。だから、僕らはそういう人たちに向けて、情報を届けるべきなんだって気付きました。

フォーカスするポイントを、ヘルシーな食事が作れる調理法にシフトチェンジしたんですね。

羽田:お腹が空いた時に何を食べようって考える人と、日々目的があって何を食べようかって考えて行動している人は全然属性が違うじゃないですか。BONIQを喜んでくれるのは後者の方で、「体を作る」とか「ダイエットする」とか目的を持って日々の食事をする人。

BONIQを使ったレシピの中でも人気が高い、鶏むね肉を使ったヘルシーな「やわらか蒸し鶏」

目的のある人にとっては低温調理って素晴らしいものなんですけど、お腹が空いた瞬間に何を食べようかと思ったら、2時間待つなら牛丼やカップラーメンでいいやってなっちゃいますよね。でも、そこと戦うんじゃなくて、BONIQを本当に喜んでくれる人に向けて進んでいくべきだって思ったのがシフトチェンジした理由です。

“神なる温度=63℃”を使えば一度にたくさんメニューが調理可能!

左上から時計回りに、BONIQで低温調理した「シシャモのコンフィ」「鶏むね肉のよだれ鶏」「サバの炙りヤンニョムソース」「マッシュルームのアヒージョ」

今回は9品も調理していただきましたが、どのメニューも本当に美味しくて衝撃でした!

羽田:びっくりしますよね? 料理人でもない僕が作った料理で感動できるんですよ(笑)。特に高級な食材を使っているわけでもなくて、サーモン以外の食材は、私たちが“神なる温度”と呼んでいる63℃で低温調理しているだけ。

ちなみにレシピサイトには「63℃で何分」って書いてありますけど、最低限その時間加熱すればOKという意味なので、ちょっとくらいオーバーしても問題ないですよ。

表は「鶏肉の加熱時間基準表」。縦軸の「加熱温度」と横軸の「食材の厚み(最も厚い部分)」から、赤枠のように加熱時間を算出する(BONIQ公式サイトの「低温調理 加熱時間基準表」より)

63℃という温度にはどういう意味があるんですか?

羽田:本来食材によって適した加熱温度は異なるのですが、豚肉、鶏むね肉、魚など、さまざまなタンパク源(食材)が一番ちょうどよく美味しく仕上がる温度が63℃なんです。

BONIQで低温調理した「サーモンの醤油麹漬け」と「温泉卵」

卵も60℃だとゆるすぎるんですが、63℃だとちょうどいい温泉卵になります。63℃なら複数の食材を一気に調理することができて、なおかつ、それぞれの食材がベストの状態で食べられます。

ちなみに今回調理した中で、サーモンだけは40℃で加熱しています。40℃だとサーモンの筋繊維は縮まずに、筋膜だけ溶解するんです。

いただいたサーモンのコンフィは、お刺身とも違った今までに食べたことのないトロトロ食感で。

BONIQで低温調理した「サーモンのコンフィ」。レシピはこちら

羽田:我々は「飲めるサーモン」と言っています(笑)。口に入れてみると、違いがわかりますよね。食べてみると確かに筋膜がなくなってるのが実感できる、低温調理のすごさを感じていただけるレシピなんですよね。

BONIQのレシピサイトにはたくさんのレシピが紹介されていますが、特に反響の大きかったものはなんですか?

羽田:やっぱり鶏むね肉のレシピは反響がありますね。あとは鶏レバーとサーモンでしょうか。

レバーもこんなに柔らかくて臭みがないものは初めて食べました。

BONIQで低温調理した「鶏レバーのコンフィ」。レシピはこちら

羽田:レバ刺しが好きな方って多いと思うんですけど、焼き鳥だと火で加熱するからどうしても肉が硬くなってしまうし、レバーは85℃を超えると臭みも出ちゃうんですよね。低温調理ではそれがないから、臭くないし、柔らかくフォアグラみたいな食感になって、レバーが苦手な人もこれなら美味しく食べられたっていう声をよく聞きます。

今回のように一度に大量に調理する場合、特に気をつけるポイントはありますか?

羽田:今日、調理の工程を見ていただきましたけど、なさそうですよね?(笑)

確かに耐熱性のビニール袋に下処理した食材と調味料を入れて、あとは水に浸けていただけでした…。

羽田:低温調理の基本的な6つのルールがあるんですが、そこさえ気をつけていれば、誰でも安全に美味しくできます。ルールと言っても難しいことではなくて、清潔な手と道具を使うとか、新鮮な食材を使うとか、低温調理でなくても当たり前のことなんですけど。

あとは、複数のメニューを作るときには加熱ムラができないように、袋をお湯の中で重ねずに袋と袋の間に水の通り道を作っていただければ大丈夫です。

BONIQが目指すのは、愛着の醸成と体験の機会創出を実現すること

BONIQ Pro2
写真は2022年10月上旬より発売予定の最新モデル「BONIQ Pro2」

BONIQを開発する際にこだわったポイントはどこですか?

羽田:やっぱり、買ってよかったなって思われる部分を、自分なりに追求したところですかね。見た目はいいんだけど、持ってみたら軽くて安っぽかったりするとがっかりさせてしまうので、質感とか感触にはこだわっています。

例えば、ボタンを押した時にどんな音がするかでも、ちょっと気分が変わるじゃないですか。BONIQでは和音のスピーカーを使って、耳障りを徹底的に追求しました。何百万曲の中から選んで自分でも調整したり、そういう行間で感じる部分も大切にしています。

確かに日々使うものだと、そういうところで愛着度が変わってきますよね。

羽田:そこはこだわりましたね。機能や価格といったスペックだけで勝負すると、ビジネス自体が他社との比較勝負でしかなくなりユーザーが見えなくなります。僕らは競合に勝つためではなく、ユーザーのために仕事をしています。

機能的な良さは当たり前ですがそれだけじゃなくて、僕らがやるべきなのは、自分たちが実際に生活の中で使ってみて、どう感じて、何を改善していくかっていうこと。そこから導き出された、愛することができる理由を重視しています。

BONIQは一般家庭用とプロ用を展開されていますが、プロ仕様っていうのは元々考えていらっしゃったんですか?

羽田:最初は家庭用だけで考えていたんですけど、初号機を発売したら結構プロの方が使ってくれていて。であれば、もう少し最大出力を高くした、プロ向けのバージョンも出したいなって思ったんです。

料理の現場でも、料理人が育っていないとか人材が不足してるっていう根本的な問題があって、それを解決できるのがBONIQだとも思ったので。実際、ミシュランの星付きのお店などでも使っていただいているんですよ。

BONIQで低温調理した「鶏むね肉のよだれ鶏ソース」。温度設定と加熱時間さえ守れば、誰でも柔らかくてジューシーな仕上がりに

購入者の方からのリアクションで印象深いものはありますか?

羽田:ご年配の方から「歯が悪くて硬いお肉が食べられないんだけど、BONIQで調理したお肉なら柔らかいので食べられる」ってお礼の電話をいただいたことがあって。それは本当に嬉しかったですね。

BONIQで加熱したお肉であれば老人ホームや介護施設などでの社会問題を解決できる可能性にも気付けました。驚きの発見でしたね。

予想外に幅広いニーズがあったんですね。

羽田:ほかにも、ワンちゃんとかペットの食事を作っているっていう声も聞きます。人間と一緒でタンパク質をしっかり与えていると、健康を維持しやすいそうです。うちの犬にもBONIQで加熱したお肉をあげていますけど、今12歳くらいなんですが、毛艶もよくて元気ですよ。

最後に、これからの展開について教えてください。

羽田:最終ゴールは、一家に一台。でもBONIQを持っている人でも、毎日使うほど低温調理が生活に溶け込んでいないという現状もあります。だから、簡単に美味しいものが食べられるよって伝えるために、ユーザーさんが体験できる機会をもっと提供していかないとなって思っています。

売るだけ売るんじゃなくて、もっとBONIQを活用してもらって、よりよい食生活への「変化のキッカケ」を提供したい。だから、もっとリアルな接点が必要かなと思っています。

低温調理専用のレストランを出すとかも面白いですよね。低温調理を前提にしたら人手も場所も少なくて済みます。下準備もセントラルキッチンでまとめてやって、アルバイトが調理してもすごく美味しいメニューが出せるって、結構新しい業態になりうるなと思っています。

まとめ

BONIQでの調理は正直、拍子抜けするくらい簡単だったのですが、出来上がった料理はすべてレストランで出てきても遜色のない仕上がりで、スタッフ一同、「おいしい!」を連発する取材に。温度管理の精度がこんなにも食材の味を左右することを初めて知りました。

羽田さんがBONIQを使うようになって一番違いを感じるのは健康面だそうで、「生活習慣病を防ぐためには一食ずつ食事の内容を改善するしかないんですけど、無理して頑張っても続かない。でもBONIQなら簡単に作れて、美味しい上に健康食。だから続けられるんです」と低温調理のメリットを語ってくださいました。

低温調理は、ダイエットやフィットネスに興味のある人はもちろん、栄養を美味しくしっかり摂りたいお年寄りやお子さんにもピッタリな調理法。BONIQを使うことがライフスタイル全般を変えるきっかけになりそうです。ぜひ一度、この衝撃の美味しさを体験してみてください!

INFORMATION

BONIQ

公式サイト

https://boniq.store/

 

記事でご紹介したレシピはこちらもご参照ください

https://boniq.jp/recipe/?post_type=recipe&p=26889

 

PRODUCED by

マガジンど 編集部

あらゆるものの温度について探究していく編集部。温度に対する熱意とともに、あったかいものからつめた〜いものまで、さまざまなものの温度に関する情報を皆さんへお届けします。

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