温度が変わればビールの味わいも変わる。
温度を変えて新しいビール体験を

JAZZBERRY / 3℃

Food

花見やバーベキュー、温泉など、どんな季節でもどんなシチュエーションでも楽しめるビール。真夏にキンキンに冷やして飲むビールは最高ですよね。でも、寒い季節にキンキンに冷えたビールはちょっと……。ということで、代官山のスプリングバレーブルワリー東京のヘッドブリュワー・古川淳一さんに、ビールがおいしく飲める温度を教えていただきました!

Writer:富江弘幸 / Photographer:橋本千尋

古川淳一さん

スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワー。キリンビール内でのスプリングバレーブルワリー開発プロジェクトに、最年少の醸造担当として参画。2017年10月、スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワーに就任し、年間数十種類のクラフトビール開発に携わっている。

スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワー。キリンビール内でのスプリングバレーブルワリー開発プロジェクトに、最年少の醸造担当として参画。2017年10月、スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワーに就任し、年間数十種類のクラフトビール開発に携わっている。

ビールがおいしく飲める温度を知りたい!

「スプリングバレーブルワリー東京」の画像
代官山駅から徒歩4分の好立地。かつて東急東横線が走っていた線路跡地に2015年オープン

クラフトビールが人気になってきたことで、ビールにはいろいろな味わいがあるということも知られるようになってきました。ビールは苦いという印象もありますが、フルーティーで甘いビールや、驚くほど酸味のあるビールもあります。では、どんな種類のビールも、キンキンに冷やして飲むのがベストなのでしょうか?

そこで今回、代官山の店舗で多彩なビールを造っているスプリングバレーブルワリー東京のヘッドブリュワー・古川淳一さんに、ビールがおいしく味わえる温度について教えていただきました。

キンキンに冷やしたビールの温度は?

古川淳一さんの画像
スプリングバレーブルワリー東京のヘッドブリュワー、古川淳一さん

ビールといえば、キンキンに冷やしてゴクゴク飲むというのが、一般的なイメージとしてあるのではないかと思います。このキンキンってどれくらいの温度なのでしょうか?

古川淳一(以下古川):そうですね。そのビールというのは、ピルスナーというスタイルのビールを指していると思うんです。

いわゆる大手ビール会社が造っている、黄金色で白い泡のビールですね。爽快なのどごしを楽しめる、ビールといえばこれ、というような。

古川:ビールにはいろいろな味わいがあって、甘いビールもあれば、酸っぱいビールもあるんですよ。ピルスナーはそのうちのひとつで、5~8℃くらいが飲み頃の温度だと言われています。キンキンという状態は、それよりも低い2~5℃くらいでしょうか。主観的な言い方なので、曖昧ではありますよね。

感覚もあると思いますし、キンキンという温度は人によっても違うかもしれませんね。

古川:家庭の冷蔵庫の温度設定にもよるんでしょうけど、冷蔵庫の一番低い温度くらいのイメージを指しているのかも。一概には言えないでしょうね。

真夏にキンキンに冷やしたビールをゴクゴク飲むのは最高においしいと思うんですけど、それくらいに冷やして飲むメリットってどんなことがあるのでしょうか?

古川:味わいとして、冷やして飲むメリットは2つあると思います。ひとつは、冷やしたほうが味は感じにくくなるということ。雑味も含めて、渋味や苦味が感じにくくなるんです。なので、のどにスッと入ってくる。暑いときは、のどを潤す目的もあって、爽快に飲みたいじゃないですか。そのほうが気持ちよく飲めると思うんです。

なるほど。確かにそうですね。爽快な味わいのほうがゴクゴク飲めます。

古川:もうひとつは炭酸ガスの具合です。温度が低いほうが、炭酸ガスは液体に溶け込みやすくなります。逆に温度が高いと抜けやすくなる。ビールを注ぐときに泡が立ちますが、そのときに炭酸ガスも抜けているんです。

グラスにビールを注ぐ画像
注ぐときに炭酸ガスが抜けても、温度が低いと炭酸ガスはビール内に多く残ったまま

ということは、冷たいほうが抜けてしまう炭酸ガスは少ないので、まだピリピリと感じやすくなっている……?

古川:基本的にはそういうことになると思います。冷えていたほうが、爽快な炭酸ガスの刺激を感じやすくなりますね。

温度が変わると、泡の立ち方も違うんですか?

古川:温度が高いほうが泡は立ちます。ビールの泡は、炭酸ガスがビール内のタンパク質やホップの成分などが作用して泡になるんですけど、温度が高いと注ぐ際に抜ける炭酸ガスの量が多くなるので、その分、泡も立ちやすくなりますね。

冷やしすぎると良さが失われることも

古川淳一さんの画像
東北地方のクラフトブルワリーによる「東北魂プロジェクト」と造った限定ビール「SMaSH Pale Ale」を飲みながら

逆に、キンキンに冷やすことで、何か良さが失われてしまうことはありますか?

古川:まず、やってはいけないこととして、凍らせてしまうこと。凍結融解の際にビールの成分が凝固してしまい、凍ったビールを解凍させると、クリアな色のビールでも濁りが生じる恐れがあります。

見た目があまりよくない状態になってしまいますね。そういえば、氷点下の温度で提供しているビールもありますが、大丈夫なんですか?

古川:0度以下でも凍らないギリギリの温度に管理できるサーバーで提供されています。ビールは商品にもよりますが、−1〜2℃であれば凍りません。

家庭の冷蔵庫はそこまでシビアな温度管理はできないですからね。

古川:それと、冷えていると味が感じにくくなると言いましたが、キンキンにしたことで逆にビールが持つ本来の味わいがわかりにくくなるということはありますね。ビールは苦味だけでなく、甘味や酸味もあるんですが、味わいが感じにくいということは、平坦な味わいになってしまう。例えば、甘味が特徴的なビールがあったとして、それを冷やしすぎると、甘味はあまり感じられず、スッとのどに入ってくるんです。のどごしを楽しみたいというのもあると思いますが、本来の味わいが感じられないということもありますね。

ビールに氷を入れて飲むのはどうなんでしょう?

古川:氷を入れると溶けてビールが薄まりますよね。もともと薄めて飲むことを想定して造っていないですし、氷が溶けたら炭酸ガスも薄まってしまいますから。個人的には、ビールは薄まったらおいしくないと思っています。氷を入れることを前提に造られているビールならいいんですが。

ビールに氷を入れて飲むのは、あまりおすすめではないんですね。

古川:これも個人的な感覚ですが、氷を入れて飲む楽しみ方として考えられるのは、ハイアルコールのビールに氷を入れるということでしょうか。8%以上のハイアルコールビールは、飲みごたえもあるものが多く、氷が溶けて多少薄まっても通常のビールよりは濃い状態だと思います。溶けていくことで、だんだん変わっていく味わいを楽しむことはできるんじゃないかなと。

店舗内の真ん中に位置するタンクの画像
店舗内の真ん中に位置するタンク。よく見ると、タンクの番号の下にはそれぞれ名前が……

なるほど。ビールを楽しむ温度について、ちょっとわかってきました。季節によってもいい温度は変わってきますよね。

古川:夏は低めの温度のほうがいいでしょう。気温が高いので、ビール自体の温度も上がりやすくなりますし。20分くらいかけで1杯のビールを飲み終えると考えると、環境にもよりますが、低めの温度でスタートして、飲み終わりが8℃くらいになったほうがいい。そのほうが、ぬるくなりすぎず、気持ちよく飲み終えられるんじゃないでしょうか。

逆に冬は寒いですし、そこまで低くしなくてもいいと。

古川:そうですね。ビールの種類の中でも、特にピルスナーは温度が変わることで味わいにも影響が出てくると思います。ビールの温度が上がると、麦の味わいが強く出てくる。それが飲みにくく感じる人もいますし、そういう意味で、飲み終わりのときの温度が8℃くらいになっているのがいいでしょうね。

飲み頃温度はビールの種類によってさまざま

古川淳一さんの画像
ビールは温度と注ぎ方で味わいがまったく変わってくるんだそうです

温度が変わることで、味わいにいろいろな影響が出てくることがわかりました。

古川:飲み頃の温度は銘柄によって変わってくるので、飲み終わるまでに飲み頃の温度に近い温度帯をキープできるといいと思っています。アメリカの軽いラガーのようなビールだと1~4℃くらいがいいようですし、アルコール度数が高いものは香りが特徴的なものも多いので高めの温度がいいですね。

高めの温度というと、具体的にはどれくらいがいいんでしょう?

古川:例えば、スプリングバレーブルワリーが数量限定で販売している「Experimental Beer ~Type Cassis~」という商品は、アルコール度数が10%もあるんです。これは10~20℃くらいの温度で楽しむといいと思います。10℃くらいから時間をかけて飲むことで、温度が上がっていったときの味わいの変化を楽しめますよ。

温度が高くなると、香りや味わいがより感じられるようになるんですね。

古川:そうですね。アルコール度数が高いこともあるので、ゴクゴク飲まずにゆっくり味わうといいと思います。

となると、ビールの種類によって、最適な温度を知った上で飲むほうがよいのでしょうか。

古川:ただ、そこには主観も入ってくるので、最適な温度はこれですというのは難しいです。私自身の好みで言えば、スプリングバレーブルワリーのコアシリーズだと、「496」は10℃くらいの温度で飲みたいですね。アルコール度数は6.5%とちょっと高めで、苦味も香りも強めです。

苦味も香りもしっかり感じながら飲みたいビールですよね。

古川:「Afterdark」という黒い色のビールも高めの温度がいいですね。コーヒーやチョコレートのような香りがするビールです。甘味も感じられるので、10℃くらいで楽しみたいです。

古川さんが開発したビール「JAZZBERRY」の画像
古川さんが開発したビール「JAZZBERRY」の飲み頃温度は……?

低い温度で飲んだほうがよさそうなビールは何ですか?

古川:「on the cloud」と「JAZZBERRY」は低い温度のほうがいいと思います。「on the cloud」は、あまり苦くなくてソーヴィニヨン・ブランを思わせるような香りが特徴。冷やしてもこの香りがすごく立つんです。冷やしてもキャラクターが損なわれないので、3℃くらいに冷やしてもいいかなと。「JAZZBERRY」は、ラズベリー果汁を使っていて、これも冷やしても香りと味わいが立ちますね。私自身、酸味が立っているほうが好きですし、低い温度で甘味を抑えて飲むほうがおすすめです。

温度が低くなると甘味が抑えられるんですか。

古川:温度が低くなると、味わいは基本的に感じにくくなるんですが、甘味が特に感じにくくなります。「JAZZBERRY」は温度が上がると甘味が強く感じられやすいので、温度は低いほうがいい。温度変化で味わいは変わるので、お店で提供するときもそれを加味しています。樽の温度は一定なんですが、グラスを常温の水にくぐらせたり、氷水で冷やしたりして調整するんです。

醸造家は提供するときの温度も考えている

限定の「FARM to SVB」シリーズ「福島県産桃」の画像
限定の「FARM to SVB」シリーズ「福島県産桃」も古川さんが開発。名前の通り福島県産の桃「あかつき」を使用

醸造家としては、ビールを造ったらテイスティングして状態を確認することもあると思いますが、そのときの温度はどれくらいなんですか?

古川:少し高めの温度でテイスティングすることが多いです。そのほうが味がわかりやすいので。テイスティングは樽詰めの前に行うことが多いんですけど、そのときの温度は0℃付近。それだと冷えすぎているので、ちょっと温度を高くしてからテイスティングしています。

ビールの温度はシビアに管理されているんですね。

古川:そうですね。家庭でも、ビールを買ってきたらすぐ冷蔵庫に保管してもらったほうが、よりクオリティを保てると思います。その時に、冷気の吹出口付近に置くことだけは避けていただければ。

透明のビールタンクの画像
スプリングバレーブルワリー東京の1階には、透明になっていて中のビールが見えるタンクも

ビールを冷やすのではなく、逆に、ホットビールという楽しみ方もありますが、これも適温はあるんでしょうか。

古川:ホットビールはますます好みによりますね。それと、私はホットビールを想定してビールを造ることはほとんどありません。ホットビールにすると、酸味が強く表れます。なので、温めただけで飲むことはあまりおすすめしません。ハチミツやスパイスを入れて調整したほうがいいですし、炭酸もなくなります。ホットビールにすると、味の感じ方がまったく変わってくると思います。

なるほど。醸造家としてビールを造るときに「これくらいの温度で飲んでほしい」と考えることはありますか?

古川:この味わいだったらこれくらいの温度がいいだろうな、ということはイメージしています。ただ、温度から考えてビールを造ることはありません。造った後に、温度も含めた飲み方は考えますね。つまり、グラスの形や温度、泡を立てて注ぐか、泡を立てないか、といったことです。こういった提供であれば、意図した通りの味が伝わるかな、と。

ビールが苦手な人でも、温度次第でビールを楽しめるものでしょうか? 苦いのがダメだという人は、冷えているほうが苦味を感じにくくなっていいのかなと思うのですが。

古川:でも、苦いビールはどうやっても苦いですからね(笑)。一般的なビールが苦手であれば、苦くないビールを選んでいただければ。甘いビールや酸味が強いビールもあるので、それを好みで選んでみましょう。それをまず低い温度に冷やしておいて、時間をかけてゆっくり飲んでみてください。温度が上がってきたときの味わいの変化が楽しめますよ。

温度が変わればビールの世界も広がる?

ビールタップの画像
ビールの味わいによって、適切なグラス、適切な注ぎ方で提供

ビールにはいろいろな種類があり、好みも人それぞれ。そして、ビールの温度が変われば、感じる味わいも変化してきます。そんな中でも、醸造家がビールの温度にこだわるのは、ビールをおいしく飲んでもらいたいからこそ。

私たち飲む側も、少し温度を気にして飲んでみると、新しいビールの世界が広がるかもしれません。ぜひ、温度に注目しながら飲んでみてください。

Information

スプリングバレーブルワリー東京

スプリングバレーブルワリー東京


住所:〒150-0034 東京都渋谷区代官山町13-1 ログロード代官営業時間:月曜~土曜 9:00〜23:00(L.O.22:00)
     日曜 9:00〜22:00(L.O.21:00)
     ※テラス席は 22:00 まで営業(冬期をのぞく)
定休日:なし
電話:03-6416-4960 (受付時間 10:00〜22:00)

ホームページ:https://www.springvalleybrewery.jp/pub/tokyo/

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古川淳一さん

スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワー。キリンビール内でのスプリングバレーブルワリー開発プロジェクトに、最年少の醸造担当として参画。2017年10月、スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワーに就任し、年間数十種類のクラフトビール開発に携わっている。

スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワー。キリンビール内でのスプリングバレーブルワリー開発プロジェクトに、最年少の醸造担当として参画。2017年10月、スプリングバレーブルワリー東京 ヘッドブリュワーに就任し、年間数十種類のクラフトビール開発に携わっている。

ビアライター 富江弘幸

出版社勤務、中国留学、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務などを経て、ビアライターとして活動している。著書に『教養としてのビール』(サイエンス・アイ新書)など。https://twitter.com/hiroyukitomie

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