お花見のベストタイミングは「温度」でわかる?
ウェザーニュースの気象予報士に聞く、桜の開花予想の法則

Cherry Blossoms / 400℃

Life

いよいよ今年も桜の季節がやってきます! この時期になると、お天気ニュースでよく見かける「桜前線」……つまり桜の開花予想ですが、あれって実は「温度」と深〜い関係があるのをご存じですか。

桜といえば、春にあったかくなると花が咲くイメージですね。でも、具体的には何度で咲くのでしょうか。温度によって、桜の咲く日を予想できるってホント?

そこで今回は、お天気に関する総合メディア「ウェザーニュース」を運営する「株式会社ウェザーニューズ」の予報センターを突撃! 温度にまつわる開花予想の法則や、今年の桜の楽しみ方を聞いてきました。

Writer:小村トリコ / Photographer:藤井洋平

やってきたのは、千葉県の海浜幕張にある「ウェザーニューズ」の本社です。
(ちなみに、お天気メディアは「ウェザーニュース」ですが、社名は「ニューズ」と濁点がつきます)

ウェザーニューズの画像

ウェザーニューズ
世界最大の民間気象情報会社であり、日本における民間総合気象情報サービスの草分け的存在。お天気ニュースメディア「ウェザーニュース」の公式サイトやスマホアプリを通して、日々の雨雲の動きや週間天気予報、防災情報、季節のレジャー情報などを幅広く発信する。ウェザーニュース内の「さくら Ch.(チャンネル)」では、全国800カ所もの桜の名所の開花予想をまとめた最新情報をお届け中!

ウェザーニューズの画像

同社の天気予報業務の中核をなす「予報センター」には、人工衛星や気象庁の観測装置アメダスからの気象データなど、気象関連のさまざまな情報が集まります。センターに常駐する気象予報のプロたちが24時間365日、それらのデータを分析して、つねに最新の情報を配信できる体制となっているのです。

気象予報士大塚さんの画像

今回は気象予報士の大塚靖子(おおつか やすこ)さんに、桜の開花予想について詳しく話を聞きました!

「寒い」と「あったかい」で桜が咲くメカニズム

まずは、桜が開花する仕組みについて教えてください。

大塚靖子(以下大塚):桜のつぼみの生長(植物が育つこと)の流れを見ていくと、まず春に花を咲かせますね。その花が散ってなくなると、今度は次の年に咲くためのつぼみを準備します。専門的な言葉では、このつぼみになる前の状態のことを「花芽(はなめ/かが)」と呼びます。「芽」から「つぼみ」を経て「花」へと変化するなかの、最初のステップです。

花芽を作るのは花が散って数カ月後、その年の夏にはすべて完了しています。とはいえ、そのまますぐに花を咲かせてしまうことはありません。桜の木は寒い冬を乗り越えるために花芽を持った状態でいったん「休眠」、つまりお休みに入るのです。

桜の開花と気温の画像

引用:意外に簡単?自分で桜の開花予想ができる「400℃の法則」
https://weathernews.jp/s/topics/201902/130235/

休眠に入る時期は、秋の終わりから冬の初めにかけての日照時間が短くなる頃。そして春が近づく前に桜が眠りから覚めて、ふたたび花芽を生長させます。この目覚めが「休眠打破(きゅうみんだは)」です。その後、つぼみがふくらんでいって春に「開花」するというのが一連の流れです。

ちなみに開花とは、花が5〜6輪以上咲いた状態を指します。各地の気象台が観測している「標本木(ひょうほんぼく)」では桜が開花した時点で、開花宣言が出されます。

桜の開花に「温度」はどんな風に影響しているのですか。

大塚:この場合の温度とは大気の温度、つまり「気温」ですね。気温が桜の開花に影響を与える大事なポイントは、大きく分けて2つあります。

気象予報士大塚さんの画像

1つは、桜の目覚めである「休眠打破」。

休眠打破に必要となるのは「寒さ」です。少なくとも5℃前後の冷え込みに一定期間さらされることで、桜は目を覚まします。通常は12月下旬から1月中旬にかけての、真冬の最も気温が下がる時期に休眠打破が起こるとされています。

もう1つは「つぼみがふくらんでいく過程」です。

休眠打破の後、桜は花芽を育ててつぼみをふくらませ、開花に向けた準備を進めていきます。これは「今日から目覚めてバッチリ働きます!」というのではなく、ううーんと眠い目をこすりながら、気温の上昇とともにゆっくりと起き上がっていくようなイメージです。この過程には「あたたかさ」が不可欠で、気温の高い日にはつぼみの生長が加速します。

つまり、一概に「あったかいから桜が咲く」とは言えないのですね?

大塚:桜が咲くのには「冬の寒さ」と「春のあたたかさ」の両方が必要です。どちらか片方が足りないと、桜はなかなか咲くことができません。

たとえば、九州南部は本州より冬の気温が高いため、休眠打破が起こるまでに時間がかかり、結果として本州よりも遅れて花が咲きます。このように、開花予想をするにあたっては、寒さとあたたかさのバランスを見ていくことが大事なポイントになります。

「400℃」VS「600℃」温度の法則で開花予想

実際にどうすれば開花予想ができるのか教えてください。

大塚:開花予想の基本的な考え方は、「休眠打破」から「開花」までの日ごとのつぼみの生長量を、「気温」によって推定するというものです。

誰でも手軽にできるやり方として、「400℃の法則」と「600℃の法則」という2つの手法があります。両方に共通するのは「2月1日」を起算日として設定すること。

まず「400℃の法則」の場合、2月1日からの日平均気温(24時間の気温の平均をとった値)を毎日足し算していって、初めて400℃を超えた日を「開花日」と予測します。

次に「600℃の法則」では、2月1日からの日最高気温(24時間のうちの最高気温)を同様に足して、600℃以上になった日を開花日とするのです。

400℃と600℃、どちらのほうが精度が高いのでしょうか。

大塚:私も気になって、試しに調べてみました。参考にしたのは、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡、高知の7都市における、過去10年分のデータです。

400℃、600℃それぞれの予想日と、実際に桜が開花した日を比較したところ、400℃の場合は「誤差5日で予想できた事例が5割くらい」、600℃の場合は「8割以上が誤差5日以内」という結果になりました。

この数字だけ見ると、そんなに違いがないようにも思えます。ただ400℃のほうは、東京ではすべての年が誤差3日以内に収まったのに対して、札幌や仙台では誤差が9日ほど出てしまう年もあり、地域によって大きな差が見られました。北国だと2月はまだ氷点下の日もあるので、どうしても数字の振れ幅が大きくなってしまうようです。

400℃の法則の場合、東京ですと誤差3日以内で予想できますが、過去10年のデータで計算してみると、札幌や仙台では9日以上、大阪や名古屋では4~5日の誤差があります。札幌に至っては、氷点下の気温もそのまま積算すると18日の誤差が出ました。この10年の傾向を見ると、東京に適している式ではありますが、全国の桜を予想するのに使うにはちょっと厳しいかと思います。

以上のことから、全国的に使うには厳しいものの、東京であればある程度の精度が出せるのかなという印象です。あくまで参考値、といったところですね。

気象予報士大塚さんの画像

ウェザーニュースの開花予想では、どのようにして誤差を縮めているのですか。

大塚: 計算は複雑になりますが、もっと専門的な方法では、もともと気象庁が使っていた「温度変換日数法」というものがあり、私たちもこれをベースにしています。

これは、日平均気温などから数式を用いて算出した「温度変換日数(DTS)」を、各地域の休眠打破が起こったであろう日から積算していって、地点ごとに定めた数値に達した日を「開花日」として予想するものです。

通常、開花予想には過去30〜50年の統計データを使用するのですが、気候変動による近年の高温傾向を考慮して、ウェザーニュースでは、過去10年から20年の統計データから割り出した値を数式にあてはめつつ、各地の桜の名所に聞いたつぼみの生長度合いなどを参考にして、開花予想日を補正していきます。さらに、全国にいる市民リポーターのみなさんからいただく「つぼみのリポート」(※)も非常に役立っています。

ウェザーニュース内にある「さくらCh.」(ページ下記参照)では、ユーザーが任意で決めた桜の木の「つぼみ〜開花〜満開〜葉桜」までを写真付きでリポートできる「マイ桜リポート」の機能がある。サービスを開始した2004年から現在までに200万通以上のリポートが届いているのだそう。

この時期になると、センターに桜開花予想の専門チームが結成されて、ほぼ毎日、最新の予測情報をアップデートしているんですよ。

開花予想に「ソメイヨシノ」が選ばれる理由

桜の開花予想というと、どんな桜でも対象になるのですか。

大塚:特別な記載がない場合、通常は「ソメイヨシノ」という品種のみを指します。ソメイヨシノを選ぶ理由は2つあって、1つは「予想がしやすい」ということ。

桜の画像

ソメイヨシノは江戸時代に新しく生まれた品種であり、他の野生種のように自然交配で子孫を残すことができません。そこで「接ぎ木」と呼ばれる、木の枝の一部を切って別の木に接ぎ合わせるという人工的な手法で増やしていきます。

つまり、日本全国にあるすべてのソメイヨシノは、最初にできた1本の原木の「クローン」です。遺伝子的な性質が同じなので、個体差がほとんどありません。

たとえば、気温や日照時間などの気象条件が揃っているとき、どのソメイヨシノもほぼ同じタイミングで花を咲かせて、ほぼ同じタイミングでいっせいに散ります。

他の品種だと、条件がまったく同じでも「こちらは咲いたが、あちらはまだ咲かない」といった個体ごとのバラツキが生じて、予測の精度が落ちてしまいます。個体差がないということは、過去の観測データをもとにした統計的な予測なども立てやすいのです。

もうひとつの理由は?

大塚:単純に「数が多い」ことです。現在、日本の桜の名所で見られる桜の木のおよそ8割はソメイヨシノだといわれています。桜といえばソメイヨシノのイメージが広く定着していて、開花とともに人々は春の訪れを感じます。

これがたとえば「梅」だとどうでしょうか。梅の品種は500種以上にものぼるといわれています。品種や個体、地域によって、梅の花の見頃は1月下旬から5月下旬までさまざまです。こうなると、全体として「梅の開花日は◯日です」とはとても言えません。

気象予報士大塚さんの画像

なるほど。ソメイヨシノは開花予想にぴったりの品種なんですね!

大塚:もともと開花予想は、「農業」のための気象研究のひとつとして進歩しました。明治から大正にかけて、農家の方々は田んぼの横にソメイヨシノを植えて、満開になったら田植えを始めていたといいます。

日本人にとってソメイヨシノは、昔から「暦がわり」となる存在で、その開花予想は研究の価値ある重要な技術だったのです。

2020年の開花予想と桜の楽しみ方

今年の桜開花の傾向について教えてください。

大塚:今年の大きな特徴として、「記録的な暖冬」が挙げられます。世界的にも日本的にも、観測史上最も高い気温となったエリアが数多くありました。引き続き3月から4月の気温も高い予想で、つぼみの生長を後押しするでしょう。

開花日はこれを受けて、ほぼ全国的に例年(過去5年平均)より早めで、なかには記録的な早さとなる場所もありそうです。

今のところ、東京の開花日は3月16日で、統計開始以来最も早くなる見込みです。九州南部だけは暖冬によって休眠打破に時間がかかり、開花がやや遅くなる可能性があります。(2020年3月時点)

お花見の見頃はいつですか?

大塚:いわゆる花見のベストタイミングといわれるのは、多くの花が開く「5部咲き」から「満開」にかけての期間です。これは開花日から5日〜1週間ほどで訪れて、それからわずか数日後には花びらが散り始めます。北日本ではもう少し早く、開花日から4〜5日で満開。気温の上がり具合によっては、開花の翌日に花が咲ききってしまうこともあるでしょう。

ただ、どの段階をもって「見頃」とするかは、もちろん個人の好みもありますよね。散り始めの「桜吹雪」が好きだという声も意外に多いです。

私自身が一番好きなのは「開花寸前」のつぼみです。開花日の前日か、場合によっては半日も持たないようなほんのひとときだけ、花びらがふわっとふくらんで、まるで風船のようになる瞬間があるんです。かたいつぼみから花びらが顔を出して開花していく様子はとてもドラマチックで、小さなつぼみから生命力を感じます。今年も見に行きたいですね!

気象予報士大塚さんの画像

まとめ

桜と温度の関係は、思っていたよりも深くて複雑でした。

冬があったかいと「桜が寝ぼけがち」というお話でしたが、大塚さんによると、暖冬だからといって花の色がくすむとか、花つきが悪いといったことはなく、咲いてしまえばいつも通りのきれいな桜になるのだそう。安心しました。

桜が咲くポイントは、寒さとあったかさのギャップ。ここまでの規模で開花予想をしているのは、おそらく日本だけなのだとか。今年はちょっと違う視点からも、きれいな桜を楽しむことができそうです。

なお、桜の開花情報は随時更新されるということで、下記の「さくらCh.」か、ウェザーニュースのNEWSの「桜開花予想」をご確認ください。

株式会社ウェザーニューズ NEWS一覧 https://jp.weathernews.com/news/archive/2020

Information

ウェザーニュースサイト「さくらCh.」

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https://weathernews.jp/s/sakura/

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マガジンど 編集部

あらゆるものの温度について探究していく編集部。温度に対する熱意とともに、あったかいものからつめた〜いものまで、さまざまなものの温度に関する情報を皆さんへお届けします。

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