食品サンプルのパイオニア、イワサキ・ビーアイ横浜工場に潜入!
「おいしそう」を作る温度とは?

IWASAKI Be-I / 180℃

Food

レストランや喫茶店、ラーメン店などの店頭でよく見かける食品サンプル。本物と見間違うほどに精巧に作られた食品サンプルは海外から日本を訪れる観光客にも大人気で、日本の文化として注目を集めています。その製作の裏側には、何やら「温度」が深く関係しているようで……。そこで今回は、食品サンプルのパイオニアで業界シェアNo.1を誇る、イワサキ・ビーアイの横浜工場を訪れ、製作工程を見せていただきました。

Writer:石本真樹 / Photographer:橋本千尋

やってきました!「Be-I FACTORY YOKOHAMA」

イワサキ・ビーアイ横浜工場
青のロゴとオレンジ色の壁がかわいい

横浜は鶴見にある「Be-I FACTORY YOKOHAMA」。1932年に岩崎製作所として創立され、食品サンプルのパイオニアとして業界を牽引する「イワサキ・ビーアイ」の日本で一番大きな工場です。

看板前の宮澤さんと黒川さん
左から、工場長の宮澤宏明さんと広報の黒川友太さん

出迎えてくれたのは、広報の黒川友太さんと工場長の宮澤宏明さん。食品サンプルを手に持って撮影させていただいたのですが、よく見るとナポリタンと納豆ごはん、浮いています……!

そして、工場の入口にあるショーケースには、個性豊かな食品サンプルがズラリ。これは年に一度、社内で開催されているという食品サンプル製作コンクールの作品だそうで、店頭に飾られる食品サンプルとはまた違ったユニークなものばかり。もはやアートの世界です。

食品サンプルの入ったショーケース
工場の入口にあるショーケース

お二人とともにいざ、工場の内部に潜入! 広々としたフロアはまるで巨大な食品工場のようで、たくさんのオーブンが並んでいます。型入れ、成形、着色、盛付けなどの工程はすべて手作業!従業員のみなさんがまるで料理をするように、一つひとつ丁寧に作られていました。

食品サンプル工場内部
広々としたフロア
食品サンプル工場のオーブン
工場内にはたくさんのオーブンが!

惣菜や麺類、スイーツ、ドリンクなど、作るサンプルの種類によって使う材料が違うので、スーパーの売り場のように、作っているものごとにセクション分けされているそう。中華や揚げ物、ビールにパフェなどなど、工場のあちこちにおいしそうな食品サンプルが置かれていて、見ているだけでワクワクします。

食品サンプルのマグロとアボカドのタルタル
これから宴会が行われるような風景が広がっています
食品サンプルのパフェ
本物?と見間違うようなパフェ

それぞれの製作工程で重要な「温度」とは?

それでは、製作工程を細かく見ていきましょう。まずは、お客さまからの要望をヒアリングして、料理のパーツの型を入れていきます。型入れに使われるのは、なんと本物の食材! リアリティを追求するため、実際に作る料理と同じ食材にシリコンを流し込んでいきます。この日はイカの輪切りで型が取られていました。アイスなどの溶ける料理は本物をもとに型が取れないので、プラスチック樹脂で最初から作るそうです。

型取りの様子
シリコンの中にあるのはイカの輪切り

2回に分けてシリコンを流し込み、固めていきます。シリコンは気温が低いと固まりにくいため、冬はブルーシートをかけて温度が下がらないようにキープ。夏など、暑いシーズンは室温で固まるそうです。

次は、シリコンで作った型にプラスチック樹脂を流し込み、食品サンプルで使用する部品を作ります。この日作られていたのは、ポテトサラダ。表面に見せる人参のパーツを入れたところに、ポテトサラダ用のプラスチック樹脂を流し込んでいきます。

人参パーツを入れた状態
人参パーツの上からビニール樹脂を流し込む

型に樹脂を流し込むところ

プラスチック樹脂を流し込んだら、オーブンで熱を加えて硬化していきます。温度や硬化時間は大きさによって異なりますが、ポテトサラダは約180℃で10分ほど。なんだか焼き菓子を作っているかのような工程です。

オーブンで焼く様子
オーブンで熱を加えて硬化していく

冷まして型から外せば、ポテトサラダの完成。まさに料理のつけあわせでよく見るアレです。本物で型を取ったからこその表面の質感。お見事!

ポテトサラダの食品サンプル
コロコロとしてなんだか可愛いポテトサラダ

随所に細かい「手仕事」がたくさん!

ポテトサラダは着色が必要のない料理でしたが、成形したあとに着色をしていくものも。見せていただいたのは、食パンの耳の着色の様子。実際の写真を見ながら、本物に近づけるように色をんのせていきます。塗料もより本物に近づけるために各担当者が配合しているということなので、経験に加えてセンスも必要なようです。

食パンの耳の色づけ
エアブラシで塗料を吹き付けて色をのせていく

着色をしたあとは盛りつけです。今回、食品サンプルの王道ともいえるナポリタンの盛りつけの様子を見せていただくことができました。まずは色をつけた麺を皿に盛る前に、オーブンで温めて柔らかくして皿に盛り、熱風を加えて微調整しながら、おいしそうに盛りつけていきます。長年ナポリタンと担当し、今は後輩にバトンタッチした宮澤工場長いわく、「麺をふんわりと盛ることがおいしそうに見えるコツ」だそう。ふんわりと盛りつけたあと、ナポリタンでお馴染みの、宙に浮いたフォークの部分を作っていくのですが、その仕掛けは「夢が壊れちゃうので秘密」ということでした。

ナポリタンの盛りつけ
熱風を麺に当てながら少しずつ微調整。細かい作業です

また、揚げ物などは、着色した各パーツに接着剤で衣をつけていくという作業も。とんかつやエビフライは工程まで本物とそっくりです。

衣を接着剤でつける様子
思わず「ソースをください」と言いたくなるほどおいしそう
食品サンプルのエビフライととんかつ

麺類や白米、レタスなど、さまざまな料理でよく使うパーツは別の工場で作られたものが供給されるので、それを使って作っていくそう。確かに、さまざまな料理の彩りでレタスは使われているし、麺類も多種多様。ごはんも丼ものから定食、洋食などでも使用されるので、素材パーツがあると効率的です。

レタスのパーツ
洋食や中華などの料理の下にしくレタス
麺のパーツ
大量の麺と白米も本物そっくりで不思議な気持ちに

白米のパーツ

ドリンク類は、プラスチック樹脂でなく、溶かしたゼラチンで作るのだとか。炭酸など、気泡を出す場合はかき混ぜてその状態のまま固めて、樹脂でフタをします。氷もパーツの供給があるそうです。

食品サンプルのドリンク
まるで本物!もちろんハイボールが飲みたくなりました

「おいしそう」を作ることに終わりはない

食品サンプルのカレーライス
本物以上においしそうな照りのカレーライス

じっくり工場を見学させていただいたあと、黒川さんと宮澤さんにイワサキ・ビーアイの歴史などについて、いろいろとお話を伺いました。

広報の黒川さんが話す様子

そもそも、創業者の岩崎瀧三さんが食品サンプルを作り始めたのはどうしてだったのですか?

黒川:まだ食品サンプルが食品模型や料理模型と呼ばれていた時代でしたけど、すでに作っていた人たちはいたんです。それを見た岩崎瀧三は、ロウに精通していた上に手先が器用だったので、作り方が大体わかったみたいで。独自に研究して作ったのが評判を呼んで、食品サンプルを事業化したそうです。

食品サンプルの事業化というのはどういうことですか?

黒川:サンプルって、ロウの時代は特にですけど、日光などで溶けて劣化しちゃうんですよね。あとはメニューも季節ごとに変わっていく場合もあります。だからうちでは、サンプルをお貸し出ししているんです。それが創業した87年前から脈々と続いている特徴です。月々1品1,000円ぐらいでお貸し出しをしていて、6品だったら6,000円というかたちです。

なるほど。それでメンテナンスもイワサキ・ビーアイさんのほうで担当するという仕組みなんですね。

黒川:そうです。やっぱり1年経つと劣化してきますから。必要な場合はその都度、作り直していきます。すべて手作業なので、やっぱり人件費がかかるんです。だから月々、定期的なお金をいただいてメンテナンスをするということのシステムのほうが、うちとしてもありがたいんです。売ってそれっきりで汚れっぱなしだと、お店のほうとしてもあまり良くないですし。

あとは、開店時に食品サンプルをすべて買い取りだと多額のお金がかかりますから。それを他にまわしていただけるので、開店時から置いていただきやすくなります。

季節ごとのメニュー変更にも対応していただけるし、常においしそうなサンプルが並べられるし、手軽に食品サンプルを導入できるし……一石二鳥のシステムですね。

黒川:創業者の岩崎瀧三が考えたアイデアです。それで事業化することができたんです。

確かに食品サンプルは高いイメージがありました。でも、今日の細やかな作業を見て、仕方がないのだなと。

宮澤:やっぱり人が一つずつ仕上げていますから。機械で作るともっと安くなると思うんですけど、なかなかあの温かみは出ないんです。

技術も日々進化していますし、素材だって変わるかもしれません。「おいしそう」に作るということに終わりはないんですよね。だから常に「おいしそう」に見えるよう、挑戦していかなくちゃいけないと思っています。

食品サンプルのカニ爪フライ
このおいしそうなカニ爪フライ。サンプルです!

努力の賜物ですね。先ほど、冬だと型を取るときにシリコンが固まりにくいとおっしゃっていましたけど、夏と冬だとどちらのほうが作りやすいんですか?

宮澤:工場の温度は一定に保つようにはしていますけど、やはり外気の温度変化にはとても影響されます。真夏はもう、どんなに冷房をかけても室内の場所によっては30℃くらいになってしまうこともあります

黒川:夏は一人一台扇風機が必須です。

宮澤:ただやっぱり、温かい季節のほうがやりやすいですね。寒いといろいろなものが固まりにくくて時間がかかりますから。

母体となる株式会社岩崎では、看板から食器、店舗改装まで、お店づくりにまつわるあらゆることを手掛けていらっしゃいます。事業の中で食品サンプルが占める割合はどのくらいなんですか?

黒川:9割が食品サンプルで、うちの屋台骨です。

やっぱりそうなんですね! こちらの工場は関東にあった工場がすべて統合されて鶴見に作られたということですが、どのくらい前からあるんですか?

宮澤:2004年に完成したので、 2020年で17年目に入りました。池上と六郷、横浜、平塚にあった4工場が統合されて、今の大所帯になったんです。現在、社員32名と、パートやアルバイトの方が46名ほど働いてくださっているので、約80名の従業員のみなさんに支えられています。

工場長の宮澤さんが話す様子

一つひとつ手作業ですもんね。イワサキ・ビーアイの食品サンプルを作る技術は、どのように培われていったのですか?

黒川:うちのほかにもいくつか食品サンプルを作っている企業はいらっしゃるんですけど、実はこの業界、というほど大きいものではないんですが、食品サンプル業界は閉鎖的で、同業者同士の情報交換はまずないんです。だから独自に考えて、今のスタイルになりました。

ロウからプラスチック樹脂に変更したスタイルも独自なんですか?

黒川:それはたぶんみなさんやっていらっしゃると思いますけど、どういった樹脂を使っているかとかまではわかりません。

ロウだと直射日光で溶けてしまうから、物理的に変わってきたということですね。

宮澤:そうですね。ショーウインドウの中も熱がこもりやすいですし、溶けて色が落ちてしまったサンプルはおいしそうじゃないですから。ロウで作られていたときは全然日持ちがしなかったので、プラスチック樹脂で作る方向に変わっていきました。

樹脂だったら、1年ぐらいは最低でも持つと思います。直射日光が当たらない場所だったら、2年、3年と持つところもあります。

黒川:使用状況によりますよね。地下街のお店だと長持ちしやすいです。

数年前から外国人の方に爆発的な人気ですよね。

黒川:SNSの力がやっぱり強いと思います。私たちの知らないところで、社内コンクールの写真がアップされていたりするんです。最近では東京スカイツリータウン・ソラマチ店などで作品を展示しているので、見に来てくださった方が写真を上げてくださって。SNSのすごさを再認識しました。

食品サンプル作りはどんな人が向いているのでしょうか?

宮澤:まずは食に興味がある人ですね。興味がないとおいしそうな感じもわからないですし、調べることもないので、ただ作っているだけになってしまいます。あとはやはり手先が器用なことは大切ですね。センスがあるかないかはやってみないとわからないのですが、センスは必要になってくると思います。

食品サンプルの納豆ごはん
この納豆のねばりをご覧ください!ちなみに箸は浮いています

工程が料理とかなり似ているので、料理上手な人は向いているのかなと思いました。

宮澤:料理上手な人は向いていると思います。着色や彩色は料理にはない工程ですけど、盛りつけが上手な人はおいしく見せられますし。パスタはふんわり盛りつけるといったことが、たぶん頭の中に入っていますよね。どこを正面にしたらおいしそうに見えるかということも大切ですし。本当に料理を作っているようなものですから。ちょっと固くて、においはないですけど(笑)。

食品サンプルを作っていて、やりがいや楽しさを感じるのはどんなときですか?

宮澤:やっぱりお客さまが喜んでくださったときは嬉しいです。食品サンプルはお客さまのものなので、自分だけで満足していても仕方ないですから。あとは、社内コンクールで受賞させていただいたときも嬉しかったです。

そういった技術を発表する場があるのはいいですよね。

黒川:先ほどもお話しましたが、以前は社内だけで終わっていたのですが、現在は東京スカイツリータウン・ソラマチの店舗などで夏休みの頃に展示しています。多くの人に見ていただけることによって、社員のモチベーションも上がりますよね。

宮澤:社内だけじゃなく、社外にも発信して一般の皆さんに見ていただくことによって、食品サンプルの普及にもつながるのかなと思っています。

宮澤さんの食品サンプルコンクール作品
宮澤工場長の作品。もはやアート!

店頭でリアルな造詣を見るだけでも楽しい食品サンプルですが、最近は、キーホルダーや小物入れなど、雑貨としても大人気。海外からの観光客を中心に、まだまだその人気は続きそうです。

作り手のみなさんの熱い想いと、素材を自在に変化させる「温度」が作る「おいしそう」な食品サンプル。イワサキ・ビーアイの店舗である、元祖食品サンプル屋さんでは、昔ながらのロウによる食品サンプル製作体験も行っていますので、ぜひその魅力に触れてみてください!

Information

イワサキ・ビーアイ

イワサキ・ビーアイ


ホームページ:http://www.iwasaki-bei.co.jp
※「Be-I FACTORY YOKOHAMA」は一般公開されていません

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マガジンど 編集部

あらゆるものの温度について探究していく編集部。温度に対する熱意とともに、あったかいものからつめた〜いものまで、さまざまなものの温度に関する情報を皆さんへお届けします。

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