文化放送「たき火特番」のプロデューサーに聞いた
たき火×ラジオから生まれる温度

Bonfire / 250℃

Life

2019年12月にラジオで放送された「たき火特番」。その反響を受けて、今年2月にはスペシャル企画の一環として「たき火ウィーク」が開催され、たき火の前から生放送を行うなどユニークな試みが再び注目を浴びました。たき火といえば炎に手をかざして温まったり、熱で調理をしたりするものですが、直に触れることなく音だけで“温かさ”を伝えるというのはどういうことなのでしょうか? 臨場感のある音を作るための工夫、そして、ラジオというメディアを通じて伝えたい思いを、番組の担当プロデューサーである加藤慶さんに伺いました。

Writer:ほそいちえ / Photographer:岡田佳那子

加藤慶さん

文化放送 放送事業本部編成局編成部次長。今回の「たき火特番」担当プロデューサー。

文化放送 放送事業本部編成局編成部次長。今回の「たき火特番」担当プロデューサー。

「たき火特番」はこんなプログラム

2019年12月8日深夜に第1弾「たき火特番~ノルウェーのテレビ局が薪が燃えているだけの映像で高視聴率を獲得したので、たき火の音だけを流すラジオをやってみた~」、2020年2月16日深夜に第2弾「たき火特番~意外にも好評だったので第2弾やってみた。今回は最後の方に少しだけ芋煮の音も入れてみた。本当はマシュマロにしたかったけど音にならないので芋煮にしてみた件~」を放送。いずれも最初と最後にナレーションが入る以外はたき火の音声を90分間流し続けるという内容で、薪がパチパチと燃えるリアルな音に驚きと癒しを感じる人が続出。SNSでは「前衛的」「とんでもないASMR」などさまざまな感想が飛び交いました。

えっ、ラジオ番組でたき火を放送する?

たき火で特番を作ろうと思われたきっかけを教えてください。

加藤慶(以下加藤):ノルウェーで放送されたたき火の番組(※)のことをネット記事で読んだことがきっかけです。youtubeを中心に流行った“ASMR”をご存知ですか? あれはラジオがもともと得意としていた分野ですので、自分たちでも何かできないかと思っていた時に記事を目にして、取り組ませてもらいました。

2013年にノルウェーのテレビで放送された「暖炉の夕べ」という番組のこと。
薪の使い方を4時間、暖炉で薪が燃える映像を8時間に渡って流したところ、20%の高視聴率をマークしました。

ラジオの得意分野ということは、今までにもそのような試みがあったのでしょうか?

加藤:1953年から続く長寿番組「朝の小鳥」では鳥のさえずりだけを流していますし、野球中継では球場に「バイノーラルマイク」という立体的に音を拾える機材を置いてガヤを録音しています。ラジオでは自然音や効果音を流す試みは昔から脈々と続いているので、どんなことをしたらどんな音になるかという感覚は我々も受け継いでいるんです。ただ対世間的な打ち出し方として、現在放送している番組そのものじゃなくて、ちょっと面積を広げてアピールするのが良いのかな、と思った結果が今回の「たき火特番」だったわけです。

加藤さんの写真

たき火の音だけを流すという革新的な番組となりましたが、受け入れられるかどうか不安はありませんでしたか?

加藤:ノルウェーで高視聴率を記録したという実績があったので、それが音だけになっても成立するのではないかと思いました。火や水の音は人間なら誰しも昔からなじんでいますし、放送時間が真夜中であることを考えても、特定の層でなく幅広い方々に向けてお送りできるかなと。社内での反応も「面白いね」と言う声が多かったですね。

12月放送の第1弾は大きな反響を呼んだそうですね。

加藤:SNSでも「聞きやすかった」「落ち着きます」などの声が多く、概ね好評を頂きました。それでスタッフからも“第2弾”をという声が上がり、2カ月に一度のスペシャルウィークに合わせて「たき火ウィーク」を実施することになったのです。

文化放送 放送事業本部 編成局 編成部次長加藤慶さんの写真

この特番を通して加藤さんが伝えたかったこととは?

加藤:本当に良い音を届けたいと言うことですね。音を聴いてリラックスして頂きたいという、それだけの思いでした。

たき火の温度を感じてもらうための音づくり

たき火の音はどのように作られたのでしょうか?

加藤:音声スタッフが「3Dオーディオ」技術を駆使して作っています。もともとアーカイブとして持っていたたき火の音源を、立体的に聞こえるように加工したものです。

みらいブンカvillage 岸洋佑のスタートアップのたき火画像
たき火の近くにマイクを置いてたき火の音を収録しているそう

薪が燃えるパチパチという音がとてもリアルでした。本物の炎のようなあたたかさや心地よさを伝えるためにどんな工夫をされましたか?

加藤:たき火の音源にもいくつか種類がありますので、音声スタッフと一緒に聞きながら、誰が聞いてもたき火だと分かるような音を選んで組み合わせました。「3Dオーディオ」技術なら自分が火の真上や火の中で聞いているような音にもできるので、いろいろ組み合わせることで無数の表現が可能なんです。

たき火特番の第2弾では芋煮の音が追加されていて驚きました。

加藤:感覚的に、食べ物の音はイイよねということで。他にもキャンプで料理するような“肉を焼く音”なども候補に上がったのですが、やはり煮込む音の方が温かさが伝わりやすいだろうと、芋煮の音源をミックスすることになりました。あと、「芋煮」という言葉のもつ変なキャッチーさが決め手ですね(笑)。

みらいブンカvillage 岸洋佑のスタートアップのたき火画像

芋煮のほかに、第1弾と大きく違うところはありますか?

加藤:実は前回とは音の構成を変えているんですよ。途中で音を大きくして“山”を作ったり、風の音を入れてみたり。音声スタッフと一緒に音源を聞きながら「音の強い時間が長かったから、ここはちょっと落ち着く時間を増やして」とか、そんなやりとりをしながら編集作業をしていました。終わり方も、第1弾はフェードアウトでしたが今回はちょっと別のやり方にしています。

燃える音に構成があるなんて、まるでたき火で物語を作るような感覚ですね。

加藤:確かに、分かりやすく言うとそういうことだと思います。

ラジオで“あたたかさ”を伝えるということ

今回の「たき火特番」は非常にユニークな企画ですが、インターネット全盛の今、ラジオというメディアにはこうした新しい視点が求められるのでしょうか。

加藤:それはありますね。ほかのメディアや番組でやらないことを常に探すことは求められます。しかし、リスナーの心に何か引っかかるものを作るという部分では、そんなに変わっているつもりはないんですけどね。あえて引っ掛かりという言葉を使いましたが、やっぱり「目立ってナンボ」みたいなところがあるじゃないですか(笑)。目立って、引っ掛かりを持ててナンボという気持ちはあります。

文化放送 放送事業本部 編成局 編成部次長加藤慶さんの写真

映像のないラジオというメディアで引っかかりを作っていく作業は難しいのでは?

加藤:映像がない分、ラジオは制限が少ない。発想や想像が比較的形になりやすいのは、実は音声の方かなと思います。逆に、テレビだと同じ発想をしてももっとお金がかかったりするわけで。

たき火ウィークのキャッチフレーズ「あったまるね、このラジオ」にはどんな思いを込めたのでしょうか。

加藤:普段からラジオは温かみのあるものと思っていますので、それを言葉にしただけというのが我々の本心です。ラジオに限らずメディアには多少なりともそういった役割があると思っていますが、特にラジオは人に寄り添うことができるメディアですよね。

人に寄り添うメディア、ですか?

加藤:文化放送、2020年度のキャッチフレーズは「ミミからだとココロに届く 文化放送」なんです。ラジオは基本的に人がしゃべることで情報を伝えています。耳から入ってくる言葉や音って、映像や文字よりも素直に伝わることがありますよね。見た目の情報がカットされると、その人が本当に伝えたいことがダイレクトに伝わってくる。つまりラジオの一番の強みは、テレビやインターネット以上に人の心を動かし、そこに寄り添うメディアになりえるということ。私はラジオこそが一番温度感のあるメディアだと思っているんです。

確かにパーソナリティに親しみを感じることは多いですね。

加藤:声や話し方から人柄が伝わりやすいのだと思います。タレントさんのなかにはメイクもせずにぷらっと来て素の状態でしゃべる、ということもありますしね。だからこそ、パーソナリティの“裸”が伝わってしまうわけだから、大変といえば大変ですけれど(笑)。

文化放送 放送事業本部 編成局 編成部次長加藤慶さんの写真

今後も「たき火特番」のようなあたたかさや温度感を伝える番組は続いていくのでしょうか?

加藤:まだ先のことはわからないですが、音にこだわった企画は続けていきたいですね。聞きやすい音、心地の良い音を届けていれば、自然と人は向いてくれる。今回の「たき火」もそのone of them(ワンオブゼム)だと思っています。

たき火生中継ラジオをダイジェストでレポート

加藤さんがプロデューサーを担当する「たき火特番」を含め、さまざまな番組でたき火に関するコーナーが放送され反響を集めた文化放送の「たき火ウィーク」。ここでは、その中から『みらいブンカvillage 岸洋佑のスタートアップ』(21日(金)19~21時)の放送をダイジェストで皆さんにお伝えします。

この番組では、なんとスタジオを飛び出して千葉県にある「たき火ヴィレッジ」から生中継を敢行。パーソナリティの岸洋佑さんとスペシャルゲストの方々が、本物のたき火の前でまったりとトークを繰り広げました。

みらいブンカvillage 岸洋佑のスタートアップのたき火画像

今回の生放送を今か今かと待ち望んでいたという岸さん。フリートークでは、つい先日、人生の転換点とも思えるライブができたこと。そして、その翌日に楽器店であるギターと出会ったことを語り始めます。

岸洋佑(以下岸):時間が止まったかのように一つのギターに釘付けになって。弾かせてもらったら、僕が想像している“父親像”みたいな音がしたんです。優しくて、強くて、支えてくれて、何かを教えてくれているような

ギターが父親とほぼ同い年の1967年製と知った岸さんは、この偶然に感激して即購入。“おとうさん”と名付けたことを報告しながら……。

:たき火の前ってなんか喋れますね

揺れる炎にリラックスした岸さん、いつもより少し饒舌?

さらに、この放送ではたき火に詳しい2人のゲストが登場。1人目の小坂真吾さんは、アウトドア情報誌「BE-PAL」編集室長。現在はたき火やキャンプが大ブームということで、ブームのきっかけや最近のキャンプ事情についてお話ししてくださいました。

小坂真吾(以下小坂):最近キャンプ場の本当によくなって、炊事場でお湯が出るんです

:お湯が出る!? アウトドアって水回り、例えばお手洗いが行きづらいイメージが……

小坂:お手洗いは今シャワートイレです

:なんだって!?

設備の驚くべき進化に、食い気味の反応を見せる岸さんです。

みらいブンカvillage 岸洋佑のスタートアップのたき火画像

2人目のゲストは、日本たき火協会会長 たき火マイスターの猪野正哉さん。「火おこし体験」などのイベントを主催する猪野さんによれば、たき火の炎の温度は約250℃。アルミホイルに包んで食べ物を焼くと味が凝縮され何を焼いても美味しくなるとのアドバイスもありました。今後は「たき火検定」を作って火おこしのやり方も教えていきたいという猪野さんですが……。

猪野正哉:火おこしの過程よりもみんなで火を囲むことが目的。最終的に火が付いて、そこに笑顔があれば

:ああ、すごくいい! そういうの!

さらに、プライベートでも仲間と一緒にキャンプに行くという猪野さんに、岸さんがポツリと一言。

:火を見ていると漠然と思ってた不安が口に出ちゃいそうな気がして。それを聴いてもらって浄化してもらいたくなっちゃうような気分。良い意味で心が不安定になってきました……弱いところが出ちゃいそう

そんな本音が飛び出したのも、たき火がもつ不思議な力のせいかもしれませんね。

みらいブンカvillage 岸洋佑のスタートアップのたき火画像
みらいブンカvillage 岸洋佑のスタートアップのたき火画像

そのほか番組内では、リスナーから寄せられた「たき火あるある」の発表や、「たき火であぶったら美味しいもの選手権」などユニークな企画を次々と決行。薪に入れると炎が虹色になるパーティグッズ「レインボーフレーム」を紹介した際には、番組公式Twitterにも動画がアップされ、大いに盛り上がりました。

こちらの放送は2月28日24時までradikoのタイムフリー機能で聴取できます。
【2月21日放送】みらいブンカ village 岸洋佑のスタートアップ
19:00~20:00 http://radiko.jp/#!/ts/QRR/20200221190000
20:00~21:00 http://radiko.jp/#!/ts/QRR/20200221200000

まとめ

ラジオ番組でたき火の魅力を伝えたい。無謀にも思える加藤さんの試みは、リスナーの心に温かい記憶を残しました。触覚的・視覚的な情報はなくても、パチパチと不規則に薪がはぜる音の向こうに、誰もが赤々とゆらめく炎を思い浮かべたのではないでしょうか。「言葉や音は、映像や文字よりも素直に伝わることがある」という加藤さんの言葉の通り、余計な情報に邪魔されないラジオだからこそ感じられるぬくもりがあるのかもしれません。
今夜はゆったりと目を閉じて、あなたもラジオの音に耳を傾けてみませんか?

Information

文化放送 たき火ウィーク

文化放送 たき火ウィーク

2020年2月17日(月)―2月23日(日)
【特設サイト】http://www.joqr.co.jp/takibi_week/

produced by

加藤慶さん

文化放送 放送事業本部編成局編成部次長。今回の「たき火特番」担当プロデューサー。

文化放送 放送事業本部編成局編成部次長。今回の「たき火特番」担当プロデューサー。

マガジンど 編集部

あらゆるものの温度について探究していく編集部。温度に対する熱意とともに、あったかいものからつめた〜いものまで、さまざまなものの温度に関する情報を皆さんへお届けします。

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