季節ごとの「温度」が美味しくする発酵食品を伝えたい。
みつはしあやこさんの「醸す」暮らし

Ayako Mitsuhashi / 40℃

Food

塩麹や甘酒などの「発酵ブーム」で注目されている発酵食品。最近は家庭で味噌を仕込む人も増え、各地の味噌作り教室も人気です。作る季節の温度や環境によって味わいに変化があるのも、発酵食品の特徴のひとつ。今回は、味噌作り体験を通じて発酵食品の魅力を広める、発酵暮らし家のみつはしあやこさんに、発酵と「温度」の関係性、自家製の発酵調味料をつかった美味しいレシピを教えていただきました。

Writer 石本真樹 / Photographer 永野雅子

みつはしあやこさん

発酵暮らし家、料理家。4人の子育てをしながら子どもたちに日常の食事の大切さを伝える「和食育こころ」を主宰。子育てをする中で料理が仕事に。

発酵暮らし家、料理家。4人の子育てをしながら子どもたちに日常の食事の大切さを伝える「和食育こころ」を主宰。子育てをする中で料理が仕事に。2018年より同じ桶の味噌を分かち合う「よこはま100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」を開催。著書に『毎日食べたい!私の好きなグラノーラ』がある。https://www.kurashinikoishite.com/

発酵食品や常温の常備菜を作るきっかけ

4人の子どもの子育てをしながら、料理研究家として活躍するみつはしさん。結婚を機に自宅で味噌を仕込むようになり、子どもたちへの食育を通じて、日常の食事の大切さを知ったと言います。

「自分が家庭を持ったときに、やりたかったことのひとつが味噌作りでした。長女が生まれてからは長女も一緒にやるようになりました。やっぱり、味噌がどんなものからできているのか、材料を知っていることによって食べ物に対する心持ちも変わってくると思うんです。今では次女、長男、次男とともに、にぎやかに味噌作りを楽しんでいます」

一年間、毎日味噌汁を飲むというみつはし家。みんなで作った味噌が家族の健康を支えています。ご自宅には、味噌のほかに梅干し、らっきょうや、庭で取れたブルーベリー、山法師の実などの砂糖をはじめ、保存食のビンがずらり。カウンターには発酵調味料を使った常備菜が並んでいます。それらの常備菜は、発酵の力によって保存がきき、「常温」で美味しく食べられるものばかり。こういった常備菜を作り置きするようになったのは、東日本大震災のときに停電や断水を経験したことからでした。

「真夏は冷蔵庫に入れたほうがいい場合もありますが、塩麹や醤油麹などの発酵調味料で常備菜を作ると、常温で日持ちするんですよね。そもそも発酵食は食べ物を腐らせないようにするための昔の人の知恵ですし。戦国時代の武士は、味噌を焼味噌にして携帯していたそうです。味噌さえあれば栄養補給できるので、携帯していた理由がよく分かります(笑)」

災害時でなくともみつはしさんのお宅では、毎日の食事で発酵調味料を使った常備菜が大活躍。今では常備している発酵調味料を使い、一番上の娘さんがササッと料理を作ってくれるのだとか。

「長女は常備している焼き肉のタレでひき肉を炒めてそぼろご飯にしたり、野菜をドレッシングであえてサラダにしたりと気軽に料理を楽しんでいます。私自身も4人の子どもを育てながら働いているので、すべて手作りというのは非現実的ですし、家族もそれを望んでいないと思います。これは作ってこれは買う、みたいにゆるく考えながらも、家庭の中では、台所や食卓こそ穏やかで温かな空気が流れる場所にしたいという想いもあります。お手伝いや作法も大切だとは思うのですが、うちではあまり言葉掛けはしていません。“指示されるから手伝う”としてしまうと、台所はお母さんだけの居場所になって、居心地が悪くなってしまうような気がするんですよね」

確かにみつはしさんのお子さんたちは、一番下の3歳の息子さんも、帰宅したら当たり前のように洗濯ものを洗濯機に置きにいっていました。身支度や料理が「自分がやること」として習慣化されているようです。

「我が家は子どもが多いので、なるべく自分のことは自分でやってもらっています。私がズボラなので自然とやってくれるようになったことと、あまりハードル上げてこなかったことが良かったのかなと(笑)。たとえば、私が嬉しそうに鍋をのぞいていれば、“ぼくにも見せて!”と子どもたちも台所に入ってきて、食材や手順に興味が湧いてくる。そのうちに、役割分担をしなくても食卓が整っていくようになりました。他人事じゃなく自分のこととして、暮らしの一部で当たり前のように支度をする。我が家の台所は、家族のみんなが入りたくて長居できる“ぬるめのお風呂”みたいな心地良い温度です」

すぐ真似したい。作り置きできる発酵常備菜のレシピ

ぬか漬け、なめたけ、麹納豆、味噌汁、酵素玄米の発酵朝食

ご主人を含めた6人家族が次々と出かけていく朝。朝食の支度はもちろん、お弁当作りもしているのに、「それほどあわただしくないですよ」とみつはしさん。それは、作り置きの常備菜のおかげなんだとか。

「朝は毎朝味噌汁を作り、保温してある酵素玄米をよそって“朝食セット”と呼んでいる常備菜をのせたカゴを食卓に出すだけ。朝食セットはおせちみたいな要領で日持ちする佃煮や漬物を作って、減ったら補充していきます。子どもたちに人気なのは、醤油麹を使ったなめたけや麹納豆。なめたけはとろみに必須のえのき茸に加えて数種のキノコを使います。うま味のかけ合わせで美味しさが増し、大きめに切った椎茸やエリンギの食感もいい。お弁当の卵焼きに混ぜ込んだり、炊き込みごはんの素にしたりと便利です。納豆にさらに米麹を加えた麹納豆は、発酵でうま味が増すので、納豆が好きならぜひ試していただきたいです。常備しておくことでこんなにも穏やかに過ごせるのかと実感する毎日なので、ついみなさんに伝えたくなってしまうんです」

試食させていただくと、身体にしみじみ染み渡るほっとした美味しさ。さまざまな料理に応用がきき、健康にいい上に毎日食べても飽きない。麹納豆となめたけのレシピを教えていただきました。

麹納豆
納豆200g
乾燥米麹 100g
料理酒 100ml
醤油 20ml

① 酒を耐熱ボウルに入れて600Wの電子レンジで3分あたため、ほぐした米麹とまぜる
② 10分ほど置き、米麹がしっとりとして粗熱がとれたら醤油と納豆を加える
③ 材料をまんべんなくまぜてなじませる
④ まぜあわせたものに出汁とり用に使った干ししいたけや昆布、にんじんをまぜ込んで少し時間を置く

煮沸消毒した保存瓶に入れ、雑菌が入らないよう冷蔵庫で保存。2週間ほど保存可能。

発酵なめたけ
えのき茸を含めたきのこ 400g
(しいたけ、しめじ、エリンギなど)
A:ペースト醤油麹 100ml
本みりん 100ml
酢 小さじ1
砂糖 少々
醤油 少々

① きのこ類は石づきなどの処理をして1cm幅程度にザク切りに
② ①とAを小鍋に入れ、混ぜたら中火で5分ほど煮る
③ 味を見てきび砂糖や醤油でお好みの味に整える

きのこはとろみとうま味が強いえのき茸は必須、その他はお好みで。清潔な瓶に入れ清潔なスプーンで出し入れすれば数週間保存可能。

酵素玄米にのっているのは、一晩味噌に漬けるだけの卵黄の味噌漬け

取材に訪れた日は、娘さんが受験勉強の真っ最中。お家で手軽に食べられるようにと、みつはしさんが作っていたのは、「発酵食だけ弁当」。

「卵焼きは、先ほどお話ししたなめたけ入りです。調味料はなめたけのみ。鶏のむね肉は醤油麹に漬けるだけ。15分くらい漬けたら、魚焼きグリルで10分ぐらい焼けば出来上がりです。鶏肉を焼いている横で甘酒につけておいた金柑も焼いて、お弁当のアクセントにします。色味的にもかわいいですよね」

すべて発酵食を使った「発酵食だけ弁当」

そして、色鮮やかで花束のような漬物も。この美しい赤やピンク色は着色しているわけではなく、すべて野菜から滲み出た色なのだとか。

「紫玉ねぎや赤い大根を漬けると全体に色がつくんです。お弁当の彩りにミニトマトを使う方が多いと聞いて、塩もみや浅漬けではなく、しっかりと漬けたピクルスだったら傷む心配も少なく彩りになるかなと思って作ってみました。酢は、たくさん柿をもらったときに作った柿酢。リンゴをたくさんもらったときにはりんご酢も作ります」

そのリンゴ酢でマスタードシードを漬けた自家製粒マスタードは子どもたちにも大人気。りんご酢にマスタードシードを漬けるだけの超簡単レシピです。

「ミキサーにかけちゃえばペースト状になるので、サンドイッチなどにも使えます。洋がらしは辛くないので、子どもたちも大好きです」

そのほか、ハンドミキサーでペースト状にした醤油麹は焼き肉のタレなどにも使えて便利。塩麹で作ったにんじんドレッシングは、米麹のとろみが乳化剤や増粘剤の役割をするので、オイルと混ぜても分離しにくいのだとか。

ニコライ・バーグマンの箱入りの花束のような美しい漬け物
左から醤油麹をペースト状にしたタレ、粒マスタード、人参ドレッシング

「温度」が美味しくしてくれる、手前味噌作り

発酵食品の中でも特に「味噌作り」に力を入れ、子どもからお年寄りまで、幅広い方々に広めているみつはしさん。

「大豆を長時間水でふやかしてから手でつぶれる固さになるまで煮るという準備が少し手間ではあるものの、材料が揃えば、塩と麹をまぜて大豆をつぶしてあわせ、丸めて空気を抜いて容器に詰めるだけ。味噌作りはやってみると意外と簡単なんですよ」

美味しくするのは、その人や家に存在する「常在菌」。昔から家によって味噌の味が違うと言われるのはそのためです。また、仕込んだ味噌を置いておく場所の「温度」も味に大きく関わってきます。味噌作りは2月〜3月上旬までの寒い季節に行われるのですが、その理由は「温度」が低いほうが、発酵が進むときに雑菌が繁殖しづらいからです。

「築50年の我が家は、冬場はすっごく寒いので、味噌作りにはうってつけなんです。同じ日に仕込んだとしても、気密性が高くて暖かい家とは発酵の仕方も変わってきます。暖かいお宅の場合は冬場でも冷蔵庫の野菜室に入れて、低温でじっくりと発酵させてもいいと思います。もしカビてが生えてしまった場合は、カビの部分を取り除けば問題ありません」

毎年家族で仕込む「手前味噌」子どもたちのイラストが可愛い

出来上がるまでに約1年かかる味噌は、通年の手入れが必要。もちろん、夏と冬では、手入れの仕方も違ってきます。

「いくら手の常在菌が発酵に必要とはいえ、夏場はやっぱり菌が増えるので、手を清潔にしてから手入れをしたほうがいいです。ゆっくり発酵するほうがまろやかな味になるので、夏は冷蔵庫で管理するほうがいいと思います。寒い時期に仕込む理由は、菌が少なく繁殖しづらいということのほかに、仕込んですぐの腐敗しやすい時期に、発酵に進むように導く必要があるためなんです。我が家では夏に味噌を仕込むこともあるのですが、やっぱり管理に神経を使いますね」

初めて仕込むときは、やはり寒い季節に仕込むほうが失敗はなさそうです。そのほか、初めてでも失敗しないためのポイントを教えていただきました。

「味噌の場合、上蓋をしっかりしてください。縁までふたをし、仕込む最中も空気が入らないよう団子状にした味噌を叩きつけるように容器に入れて、なるべく空気に触れる部分を少なくします。容器を煮沸消毒したあと、焼酎などアルコール度数の高いものを吹き付けておくと尚、安心です。木桶の場合は海水ぐらいの塩分の塩水に一晩漬けておくと、防腐、防菌になります。木桶が空だった期間が長い場合は隙間ができているので、水で膨らませてから仕込むと漏れません。減塩を気にされる方もいるとは思うのですが、塩分濃度が高いほど腐敗しづらいので、初めは普通のレシピのほうがチャレンジしやすいと思います。あとはやっぱり、マメに見ることが大事。カビが生えてしまってもあわてず、その部分を大きめにスプーンで取って、残りはそのまま発酵させてください。暑い季節に味噌を仕込むときは、一気に発酵するのですぐにできて、キリッと辛い味噌になるので、タレなどに使うには使い勝手がいいんです。夏場は少量をジップロックに入れて、素手で触らずにすべての作業やると、菌が繁殖しづらいですよ」

一度にたくさん仕込むと味わいも変わってくるため、集まってワイワイと作るのも味噌作りの魅力のひとつ。みつはしさんが講師として2018年よりNPO法人森ノオトと取り組むプロジェクト「よこはま100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」は、その名のとおり、100人の人たちで集まって、大きな木桶に味噌を仕込むという取り組みです。

「2020年で3回目の開催になるのですが、地域とのつながりや人の輪が広がってきました。2年目からは、1年前に作った“同じ桶の味噌”をみんなで食べるというシェア会と、今年の味噌を仕込む仕込み会の二部構成で開催しています。一緒に作った味噌を一緒に食べる機会はなかなかないので、参加してくださるみなさんにも楽しんでいただけているようです」

「よこはま100人のひとしずく」が開催される、「にいはる里山交流センター つどいの家」は、横浜市緑区にある新治市民の森の中にある施設。都心からほど近い場所にありながら目の前に里山が広がる素敵な場所です。「こういった取り組みや料理教室、近所の方々と集まるなど、初めての味噌作りを一人ではなく、みんなでやるとハードルが一気に下がります」とみつはしさん。

「普段のお料理は作ったそばから食べてしまうけど、味噌が完成するまでの丸1年近くの間、時折一緒に作った人のことを思い浮かべることもあると思うんです。そういった時間が、食べ物を大事に思ったり、愛しく思ったりすることにつながっていくのではないかなと思います」

暮らしに発酵食品を取り入れて、身体ポカポカ

みつはしさんのお宅の台所の下にある棚には、味噌のほかにも、らっきょう、梅酒、梅干しなどといった、あらゆる種類の発酵食品や保存食が並んでいます。

「たぶん、ほとんどの発酵食は一度作ってみたと思います(笑)。醤油も作ったことがあるんですけど、買ったほうが美味しいですし、好きな醤油蔵を買って応援するという意味あいもあり、現在は作っていません。ほかには、庭のブルーベリーやヤマボウシの実を砂糖漬けにしたり、山椒を味噌や醤油で漬けたり。食べ物以外では、ドクダミチンキや、みかんの皮を干したものも。入浴剤としてお風呂に入れているのですが、子どもたちはみかんを食べ終わると干すのが習慣になっています」

この日は色鮮やかな、なすと大根、エリンギが入っていました

日常的に食べる発酵食品として身近なもののひとつが「ぬか漬け」。「ぬか漬けも意外に簡単なんですよ」とみつはしさん。娘さん用に作っていた「発酵食だけ弁当」に入れたぬか漬けのぬか床を見せていただきました。

「自宅で精米しているので、そのときに出るぬかを使っています。自分で一から美味しくするのは大変なので、美味しいぬか漬けのお店で、買うときにたっぷりとぬかをつけてもらうんです。それを自分のぬかと合わせると、活性化されて美味しくなっていく。お店の方との話の種にもなりますし、菌でつながっていくようで楽しいです(笑)」

みつはし家で大活躍しているという、「酒粕味噌」も見せていただきました。味噌を作るときに、少量を容器に小分けして入れて、酒粕でフタをして発酵させるだけ。酒粕と味噌をあわせて入れると、美味しい粕汁ができあがります。

また、魚を買ったときには、酒粕と甘酒、塩麹をまぜて魚を漬けるのだとか。この日見せていただいたのは、立派な身のブリの粕漬け。日持ちする上に、味わい深い粕漬けは子どもたちも大好きなのだそう。

味噌を仕込むときに、酒粕でフタをするだけ。この味噌で粕汁が簡単にできる
焼くとアルコールが飛ぶので子どもも問題なく食べられる

いろいろと発酵食品を紹介してきましたが、なんといっても最大の魅力は、「身体にいいこと」。結婚してから13年、発酵食品を食べ続けてきたみつはしさん自身も、それは実感しているといいます。

「子どもと外で遊ぶ機会も多いですし、ずっと冷え性だったんですけど、今では平熱が37度台になり、病気にかかりにくくなりました。子どもたちも、クラスに一人はいる真冬でも半袖で大丈夫な健康優良児。食事にひとつ加えるだけで栄養バランスも取りやすいので、忙しい人でも体調管理が楽にできるのではないかなと。納豆や味噌をよく食べて腸内環境が整っているからか、家族全員、あまり風邪もひきません。発酵するのに時間はかかりますが、手間はかからないので、健康のために発酵食品を暮らしに採り入れていただきたいです。腸内が整うとお肌や爪、髪などの、女性が気になる部分も内側からメンテナンスできますよ!」

自然の恵みをすべて無駄にせずに使い、「醸す」ことで美味しい料理に変えていくみつはしさん。これからも温度や組み合わせなどを工夫しながら、美味しくて健康にいい発酵食を作り、広めていきたいと話してくださいました。

「温度」が「発酵」を促すことによって、うま味や栄養価はもちろん、身体に吸収しやすい状態になるという、いいことずくめの発酵食品。まずは味噌作りからチャレンジして、身体にいい「菌活」に取り組んでみませんか?

「よこはま100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」
日時:2020年2月22日(土)
場所:にいはる里山交流センター「つどいの家」
http://morinooto.jp/2020/01/09/100ninmiso20/

produced by

みつはしあやこさん

発酵暮らし家、料理家。4人の子育てをしながら子どもたちに日常の食事の大切さを伝える「和食育こころ」を主宰。子育てをする中で料理が仕事に。

発酵暮らし家、料理家。4人の子育てをしながら子どもたちに日常の食事の大切さを伝える「和食育こころ」を主宰。子育てをする中で料理が仕事に。2018年より同じ桶の味噌を分かち合う「よこはま100人のひとしずく〜手前味噌プロジェクト〜」を開催。著書に『毎日食べたい!私の好きなグラノーラ』がある。https://www.kurashinikoishite.com/

マガジンど 編集部

あらゆるものの温度について探究していく編集部。温度に対する熱意とともに、あったかいものからつめた〜いものまで、さまざまなものの温度に関する情報を皆さんへお届けします。

Share on